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気候変動対策に関する政策提言

2021年9月

日本版気候若者会議

目次

1.私たちが捉えている現状・危機感 (P2〜P4)

2.目指す社会像・ビジョン(P4〜P5)

3.取るべき政策の方向性(P5〜P6)

4.具体的な実施策の提案(P6〜P55)

  • 消費(P9〜P14)
  • 移動(P14〜P20)
  • 住む(P20〜P24)
  • 食(P24〜P29)
  • 産業・生産(P29〜P46)
  • 総合(P46〜P55)

5.参加者・賛同団体一覧(P55〜P62)

1.私たちが捉えている現状・危機感

気候変動による不正義

  • 気候変動による地球規模の影響は甚大である。世界中で、人々が生活を根本的に変え、生存に直接関わる被害を受けている。また、気候変動の影響によりその土地の自然環境や生態系が破壊され、深刻な悪循環が起きている。これにより、人々により複雑で深刻な被害がもたらされている。国内では自然災害の大規模化という形で被害が起きている。2018年には台風による災害で経済損失が2兆1800億円に達し、統計以来最大の被害額となった※1。気候危機は既存の脅威を倍増させるとされており(Threat Multiplier)※2、貧困、飢餓、格差、自然保護、ジェンダー、ガバナンスなど既存のありとあらゆる問題を悪化させるため、持続可能な開発目標(SDGs)の17のゴールの達成は不可能になるとの指摘もある。

注目すべきは、上記のような気候変動の被害を受ける者と気候変動の原因となる温室効果ガスの排出の大部分を占める者が合致しないという不正義が起きている点である。経済先進国でのエネルギー大量消費によって、経済途上国での気候変動の被害が引き起こされることなどのことが起きている。がまた、経済的な格差や人種に起因する格差を助長している。IPCC報告書のシナリオによると、このままCO2を排出し続けると2100年に産業革命前と比べて最大4.8℃上昇すると見込まれている※3。脱炭素化を進め、現在の地球環境や自然生態系を守ることは急務である。

※1 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001396912.pdf

※2 https://www.un.org/peacebuilding/fr/news/climate-change-recognized-%E2%80%98threat-multiplier%E2%80%99-un-security-council-debates-its-impact-peace

※3 https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg1_overview_presentation.pdf

将来世代の被害

  • 気候変動の被害は、温室効果ガスの排出が続くことで、今後さらに深刻化する。それは現在世代の排出によって将来世代が気候変動のさらに深刻な被害にあうことを意味する。これは明らかな不正義である。現在の気候変動対策の不足によって将来世代に被害が及ぶことは本来はあってはならない。日本社会の意思決定はほぼ高齢世代が独占している一方、将来世代は選挙権/被選挙権も限られ、意見を反映させるための仕組みもほとんどなく、現在の政策決定に本質的に関わることができていない。それにもかかわらず、現在の政策によって、将来にわたり大きな影響を受け続ける。将来において自己決定権を有する社会であるならば、気候変動対策の文脈においては若者が現在の温室効果ガス排出量の許容量、つまり、将来的なリスクの許容値を決定するための権利を有するべきだ。

民主主義的問題点

  • 現在の政府の政策決定プロセスは不透明であり、若者をはじめとした当事者の意見がプロセスに十分に反映されていない。民主主義社会においてとりわけ大きな影響を受ける当事者がボトムアップの形で政策についての意見を反映させる機会が必要である。これは、当事者の視点を取り入れ、気候正義を追求するためのプロセスである。正義とは、与えられた資源や権利責任をどのように配分するべきか問う概念である。こういった観点は既得権益重視の姿勢では完全に無視されるものである。既得権益を重視し既存の産業やシステムを過度に守り続けることはイノベーションの機会を喪失し、長期的視点で産業衰退に繋がる。そして、格差社会を助長し多くの人の幸福を奪い、現在から将来にかけての不正義をも引き起こすものである。他方、ジャストトランジション(公正な移行)の観点から、気候変動に対応する過程で発生する雇用問題・失業問題に対し対策を取ることが必要なことも忘れてはならない。さらに、市民の気候変動に対しての理解と行動が不足していることも問題である。気候変動やそれに対する対策への理解不足は市民の意見反映や政策立案の場の監視を難しくする。

 上記のような現状を克服していくために、若者の意見を集約する場が必要である。その役割を日本版気候若者会議が担い、将来世代を中心とした政策作りを行うための契機とする。

これまで一人ひとりの尊厳より一部産業界などの既得権益を重視してきた政策や、将来世代の視点の欠如した経済社会の意思決定により、気候変動問題がここまで放置され続けてきた。この根本的な問題を脱しない限りはCO2の排出を抑えても、また新たな問題の火種となるだろう。私たちには脱炭素のための政策だけでなく、新たな社会を作り上げる意思が重要である。

2.目指す社会像・ビジョン

 私たちが目指す社会像は幸福と環境を両立させた社会である。それは気候正義と自然環境保全が実現され、ひとりひとりの基本的人権と幸せが実現する社会である。その社会が実現される際に、将来世代に対して真摯に向き合うことが可能となる。既得権益者や偏った世代の意向を重視することは、多くの人にとっての幸福と環境を軽視することであり、将来世代に負担を強いることになる。経済は幸福と環境を両立させ、将来世代に真摯に向き合うことを優先すべきだ。なぜなら、人類が健全に暮らしていける自然環境がなければ社会も経済も成り立たないからである。幸福や環境を無視した経済を私たちは求めない。

 そのような社会においては、ボトムアップ型で市民の意見が取り入れる政策決定をしなければならない。ただ脱炭素化を進めることだけを考えるのではなく、より俯瞰的かつ分野横断的に議論を行わなければ、気候変動などの長期的かつ甚大な影響を及ぼす問題に対する対策は見えてこないからだ。また、市民の声をもとにしながら、科学的エビデンスに基づいた合理的な政策決定を行うことのできる民主主義体制を形作っていく必要がある。

 そのような社会が実現されたとき、一人一人の物事の考え方は大きく変化していく。すでに大量生産・消費・廃棄を善としていた価値観から転換し、循環やコモン(共有物)をより意識した概念が浸透しつつある。

 「将来世代のために」、「子どもたちのために」という言葉はよく聞かれるが、気候若者会議からの提言によって、現時点の社会がどこまで真剣に将来世代と向き合おうとしているのかあぶり出されることになるだろう。

3.取るべき政策の方向性

 私たちが目指す幸福と環境を両立させた社会を実現するためには、不正義を許している現在の社会構造からの転換が必要とされている。これは将来世代に渡って負担を強いる時間軸での不公平、地域や貧富の格差で生じる影響の不平等さを是正するため、気候正義の観点から強く要請されるものだ。現在の経済システムありきの議論では、私たちの求める社会像は達成できない。そのため、私たちは、最新の科学的知見に基づき、急速な脱炭素化と、多くの問題を生じさせている現在の社会構造に変化を起こす政策を提言する。既に確立され、他分野で使われている技術やシステムを取り入れ、温室効果ガス排出などの環境への負荷をできる限り、かつ求められる水準まで、低減させる。しかし、ただ温室効果ガスの排出を減らすこと、環境負荷を減らすことを考えるだけでは不十分である。私たちは人々が搾取されず、一人一人の生活が尊重される社会を目指しているのであり、政策はそれを実現するためにあるべきである。人々の生活を尊重するためには、生態系を保護することも必要である。新たな技術やシステムの導入によって特定の人々を害することはあってはならず、技術やシステムの導入によって自然環境や生態系を守ることで、社会の人々の生活を豊かにすることを目指す。特に将来世代の生活について配慮すべく、負担を後回しにするようなことを防ぐ必要がある。

 社会の大転換と同時に価値変容も必要である。科学だけでなく社会がどうあるべきかを問う本質的思考が求められる。これまでGDPによる経済成長を国の成長指標としてきたが、すで経済的に成熟した日本において幸福と経済は正比例の関係ではないことはすでに示されている。将来の日本がどの分野で世界を牽引するのか政府は見出せておらず、これまでと異なるベクトルで国の豊かさを定義することが急務となる。幸福と環境の両立という面では、現在日本は発展途上国である。それは、省みる点ではあるが、今後の希望でもある。「私たちはなぜ気候変動対策を行うのか」という本質を政府も経済界も若者を含めた市民も一人ひとりが再考し、国家全体で未来志向の民主的な合意形成プロセスを形成していかなければならない。

4.具体的な実施策の提案

 日本版気候若者会議では、テーマ別に分かれて提言を作成した。したがって、以下テーマ別に提言する。なお、各提言は参加者全員で投票を行い、1/3以上の反対がないものは「採用する(提言する)」というルールのもと行った(そのため全ての提言に全参加者が賛成したとは限らない)。

提言タイトルまとめ

テーマ1:消費
1ゼロウェイスト宣言と全国的な発信
2カーボンフットプリント(CFP)のわかりやすいラベリング方法の提案
3環境省によるラベルの作成と周知強化
4循環型消費社会の実現に向けたシフトチェンジ
5消費者購入履歴の可視化
6社会インフラシステムの<コモン>化
7ブロックチェーン(BC)技術によるサーキュラーエコノミー(CE)指数の導入
8プラスチック輸入抑制対策から見る日本の処理体制問題
9量り売りの推進
テーマ2:移動
1自動車まちづくり計画策定と公共交通機関との連携による自転車利用の促進と最適化
2次世代短距離移動手段の促進と法警備の強化
3バスを中心手段とした減炭素スマートシティの構築
4物流のCO2排出量を削減するための施策案
5長距離移動における移動手段としての電動車導入支援を中心とする諸施策
6蓄電池材料の調達力強化
7蓄電池のリサイクル方式の確立
8系統接続ルールの改訂
9次世代送配電網(スマートグリッド)の整備促進
10容量メカニズムの確立と柔軟かつ確実な調整力の確保
11LNG(液化天然ガス)の安定的確保のための政府支援
12水素の拡大利用における都市ガスネットワーク活用への熱量バンド制の導入
テーマ3:住む
1IT技術を活用したマテリアルパスポートの構築とサスティナブルな建築物の評価認証制度の確立
2環境省の常設部署として「市民電力推進部」の設置~地域新電力促進の効果的利用に関する提言~
3既存住宅における省エネ改修の推進
4HEMSの普及促進
522世紀に残す持続可能なオープンスペースの増加
テーマ4:食
1日本の農林水産業をより持続可能なものに
2日本版プラネタリーヘルスダイエットの作成
3ドギーバッグ(飲食店などでの食べ残しを自主的に持ち帰る行動)の普及
4食品の環境負荷を表す規格の導入・推進
5商品への電子タグ(RFID)活用の推進
6食品ロス問題を身近に感じられるような情報発信を
テーマ5:産業・生産
A.生産活動の脱炭素化のための提言群(直接的)
1第6次エネルギー基本計画に対する電源構成の見直し(再エネ100%)
2カーボンフリー水素技術の確立
3あらゆる業種・業態の事業者における脱炭素化の促進
4大学の脱炭素化・再エネ100%早期達成
5蓄電・送電技術に関する開発支援の継続及び一般への啓発
6資源を循環利用する生産
7炭素税率の引き上げ
8カーボンプライシングに関する検討状況の公開
9排出量取引の導入
10民間の環境投融資機会の拡大
11現実的な脱炭素技術への選択的公共投資
12発電技術環境アセスメントの見直し
B. 生産活動の脱炭素化のための提言群(間接的)
13経団連カーボンニュートラル行動計画への提案
14GHG情報開示の義務化
15インセンティブ強化による企業のGHG情報開示の促進
16国際炭素税の導入
17発電インフラ輸出方針転換
C. 過剰生産をなくすための提言群
18過剰生産に対する規制
19過剰消費を煽る広告の規制
20過剰生産能力の縮減促進
21非営利型投融資の拡大と促進
D. 産業部門従事者の救済のための提言群
22公正な移行メカニズムの導入について
23ベーシックインカムによる公正な移行の補完
E. 脱炭素化と生態系保全の両立のための提言群
24脱炭素技術サプライチェーンの環境影響払拭ガイドライン導入
25脱炭素と生物多様性保全の統合的戦略
テーマ6:総合
気候変動対策の強化
1温室効果ガス排出削減目標の引き上げ、2040年目標の設定
2気候変動外交の強化
3成長追及からウェルビーイング向上へ
民主主義
4気候市民会議の創設
5Decidimの導入
6誰もが気候変動問題への取り組みに参加できる仕組みづくり
7気候変動などの持続可能性の環境問題に対して活動する学生への支援
8民主主義の透明性
9独立行政機関である、気候変動委員会の設置
教育の拡充
10環境教育の拡充
11気候変動解決のための大人への消費者教育
12義務教育における環境に配慮した食育等の促進
13学びなおしスクール(成人教育機関)

テーマ1:消費

1.ゼロウェイスト宣言と全国的な発信

 本提言案は、ゼロウェイスト社会を実現することが目的である。日本の消費活動には必ずと言っていいほどゴミ問題が付きまとう。コンビニでお弁当を買う際のパッケージごみ、お水を買う際のペットボトルゴミ、ネットショッピングをした際の梱包ビニールや大きな段ボールボックスなどのゴミを毎回の買い物で生み出している。例えば、日本全体のプラスチック消費量に関しては、プラスチック循環利用協会の調べによると、2019年の日本国内樹脂製品消費量は939万tであるにもかかわらず、マテリアルリサイクルは186万tであった。資源として再利用はあまりされておらず、ゴミとして捨てられていることが多いことがわかる。これには、ゴミ処理の方法やリサイクルされた後の製品に関する情報が十分に知られていないことや、過剰な生産・消費(消費生産一極集中)、地産地消ができていないという要因が付随している。私たちの日常生活の中に根付くような取り組みでゼロウェイスト社会を実現するために、以下の内容を提言する。

  • 自治体がコンポスト場をインフラ設備として設置することを国が促進すること
  • 自治体がコンポスト場をインフラ設備として設置する際、国による補助金の支給を検討すること
  • 国のリサイクル基準を厳しく設定すること

例えば、資源として回収する際に、「紙類」で1つにまとめるのではなく、「雑誌・雑紙」「牛乳パックのような紙パック」「カップ麺の容器のような紙パック」「裏側が銀色になっている紙パック」など細かく分類することが挙げられる。

  • 消費活動や環境政策を地方自治のような小規模単位で実施すること

具体的には、上勝町のようにごみステーションに持ち寄って45 種類以上に分別し、リサイクル率が80%を超えるような事例が挙げらえる。

  • 企業に対し、リサイクルを前提に製品を製造すること

例えば、化学繊維を極力使わず、使ったとしても色を変えて分別しやすいように工夫をすることが挙げられる。

  • 国・地方自治体に対し、ゼロ・ウェイストアワーを制定すること

例えば、ブータンでは毎月2日に「ゼロウェイスト・アワー」が制定され、2030年までに廃棄物ゼロ社会を目指す取り組みが行われている。一般市民の社会的責任を啓蒙し、空き地への不法投棄をなくす目的から、国・地方公共団体がゼロウェイスト社会実現のため、毎月2日にあらゆる組織や個人が周辺地域を清掃する「ゼロウェスト・アワー」(廃棄ゼロの時間)を少なくとも1時間設けている。

2.カーボンフットプリント(CFP)のわかりやすいラベリング方法の提案

 本提言では、商品の部門分け及びその部門におけるカーボンフットプリント(CFP)の数値に基づく評価を設け、CFPの数値と共に商品に表示することを提言する。消費者がCFPを理解して評価し、商品選択を行うことを通じて、これらの企業に利益をもたらすという仕組みが必要だからである。CFPが普及、定着していない要因の一つに、費用を負担してCFPを商品につけるなど環境への負荷を減らす努力をしている事業者や企業が報われないことが挙げられる。また、CFPがCO2排出量の絶対値の表記のみのため、数値がどの程度環境に影響を与えるのかを消費者側が判断することも難しい。

 経済産業省を中心に、ある部門においてCFPの数値がX~Yまでの製品はAグループというように、商品の範疇とその部門内でのCFPの数値に基づく評価を設定し、その評価をCFPの数値と共に商品に表示することで、消費者が商品の選択を行う際、環境にどれだけ負荷がかかっているかをわかりやすくすることを求める。また、一食や一日分のCFPグループを入力すると、地球何個分の生活になっているかがわかるようなアプリが開発され普及すれば、ゲーム感覚で環境に良い生活になったと思える仕組みが構築されるのではないかと考える。消費者がCFPの意味を理解して企業を評価し商品を選択しやすくなると共に、企業の商品へのカーボンフットプリント(CFP)の表示の普及が期待される。

3.環境省によるラベルの作成と周知強化

 環境省独自のラベルを作成し、基準を満たした商品のパッケージに表示することを提言する。

 環境省の環境ラベル等データベースによると、環境ラベルは計133個あるが、ほとんどは認知度が低く、消費者が内容を理解し十分に信頼できるラベルは少ない。環境省が提示する7つの環境負荷項目と6つのライフステージが考慮され、かつ認知度9割を超える環境ラベルに「エコマーク」があるが、この認知度9割は「エコマークがついた商品を選ぶ人」「買った商品の中にエコマークが付いていた人」「エコマークがついている商品を見たことがある人」など様々で、必ずしも環境ラベルを活用した消費が進んでいるとは言い難い。また、基準はラベル毎に異なるため統合も困難である。

 例えば、国の審査を受けて表示の許可が認められた商品の信頼度が高いマークに消費者庁の特定保健用食品マークがある。この特定保険用食品マークのような環境ラベルがあれば、環境に優しい商品が優先的に選ばれ購入される目安として消費者に普及し、エシカル消費の意識を高められると同時に、環境に優しい活動や生産を促すことが期待される。以上より、環境省によるラベルの作成を求める。ラベル作成の際は、製造過程でCO2排出実質ゼロ・汚染物質排出ゼロ・包装やパッケージで使われるプラスチックゼロ・リサイクル・リユース過程の公開を基準に入れることを提言する。

4.循環型消費社会の実現に向けたシフトチェンジ

 ダウンシフティングの導入、シェアリングエコノミー、そして修理産業の活性化を包括的に実施することを、国が省庁横断かつ若者を含むあらゆるステークホルダーとの協働を検討し推進していくことを求める。「つくる→買う→壊れる→買い替える」「使い捨て」といった大量生産・大量消費の従来の消費経済の構造が、過剰な生産、長時間労働とそれに伴うエネルギーの消費につながり、環境に大きな負荷をかけているからである。壊れたものは修理をして長く使い続けられる、「捨てる」を前提としない、シェアリング出来る商品を増やしものを所有しない価値観を広げるなどのような、新しい消費経済に資する社会構造が必要である。以下を提案し、国で検討することを求める。

【ダウンシフティング】

  • 国がダウンシフティング導入及び企業に対してダウンシフティングを求めることを検討する
  • 11月23日勤労感謝の日の翌日から1週間をダウンシフティング週間とする
  • ダウンシフティング週間は、週休3日で働く

【シェアリングエコノミー】

  • 国から補助金を支給する対象をシェアリングエコノミー業界に携わる民間企業に拡大

【修理産業】

  • 欧州連合のように「修理する権利」を定めた上で修理産業を推奨し、国からの補助金を設ける
  • 国内の修理産業の質を向上させる研究や取り組みを推奨し補助金を支給する

【新しい社会構造について】

  • 以上の提言に加え、大量生産・大量消費に変わる新しい消費経済に向けて、社会・経済・環境の側面から、省庁横断的にあらゆる利害関係者を含めて検討する場を国で運営する

5.消費者購入履歴の可視化

 大型商業施設、小売店会社、金融機関に対し、厳重な情報漏洩対策がされた上での店舗カード・クレジットカード等とAI技術を紐付けて消費者購入履歴の可視化と、及び顧客が購買履歴を確認できるブースを店舗への設置を検討することを求める。消費者の不必要な重複購入を避け、エシカル消費を促進するためである。2018年度に消費者庁が実施した消費者意識基本調査によると、「倫理的消費を行う」と回答した人は回答者の内36.1%と伸び悩んでおり、消費者のエシカルな購買意思決定の為に消費者が商品の必要性を考えさせられる様な気づきを与える機会が必要であると考える。

 衣類やプラスチック類などエシカル消費がされにくい商品を中心に、種類ごとに商品を区分し、過去に類似商品購入履歴を可視化することで、冷蔵庫やパントリー、またクローゼットに何が入っているかを確認せずに買い物に出かけてしまった場合や、商品を買おうか迷った際に、買い物履歴に基づき自分が保持しているものが分かる。買わなくても用が足りると提案できれば購買意思決定を倫理的にサポートすることができると考える。

6.社会インフラシステムの<コモン>化

 大量生産・消費社会が慣例化した現代社会は気候変動問題を増長させ、ラナプラザの悲劇にみるように特にグローバル・サウスを蝕んでいる。こうした「気候不正義」解消に必要なことは、資本家や有力な政治家よりも、市民が政治社会にコミットメントできる公正な経済モデルを実現し、「全員」で豊かになることだ。

 本提言は、社会インフラを政府の管理の下から「公益コミットメント意識の高い立候補した市民」に移動させる「社会インフラのコモン化」を要求する。歴史的に見て市民が活動し、社会を変革してきた一番の要素は「協同」である。彼らは明らかな社会的不正義問題を即時に提起し、必要な解決策を実行するに違いない。政府には良くも悪くもあらゆる複合的な柵が存在し、それが必要なシステムの変革を妨げている。

 例えばフィアレス・シティの典型例として挙げられるバルセロナ市民会議は、気候正義の悪影響を被る市民の意見をいち早く吸い上げ、ラディカルな意志が電力シフトや雇用対策に抜本的政策に反映させ、パラダイムシフトに繋げている。このような市民参加型社会は、若者の政治的関心や地方活性化が改善することが期待されるので、現在の日本に必要ではないか。

7.ブロックチェーン(BC)技術によるサーキュラーエコノミー(CE)指数の導入

 経産省が昨年発表した「循環経済ビジョン2020」では、脱大量生産・大量消費型社会実現の必要性とCE実現への企業活動の自発的促進が提起されている。呼応する形で浸透した「ESG投資」は、企業や投資家内でもその重要度は言わずもがなだが、判断基準の不統一や不透明性といった理由から実効性には懐疑的な意見もある。そしてグリーンウオッシュ企業顕在化も見られ、グローバルサウスの住民生活にいち早く影響する。彼らが犠牲を出すことなく、不自由ない幸せな人生を歩む為にCEの実現は必須である。

 本提言では、投資家や市民がCE実現への企業を正確かつ正当に評価する新しいKPI(Key Performance Indicator)として、「CE指数」導入を提案する。BCは企業によって多様な廃棄方式や廃棄量を日時、場所、方法に基づく特定化が可能なので、CE指標を決めるアプローチとして効果的である。欧州を中心に、CEへのBC活用プロジェクトが複数創出されている。本国ではCE技術をKPIとして取込み、企業活動や存在価値を再度精査する仕組を構築する。CE実現にはCEにコミットする企業しか生き残れない社会システム整備が不可欠である。

8.プラスチック輸出抑制対策からみる日本の処理体制問題

 日本では年間約150トンものプラスチックくずを、「資源」という位置付けでアジア諸国に輸出している。その中には、タバコの吸い殻の入ったペットボトルや、食べ物などで汚れたプラスチック容器等のリサイクルのしにくい廃プラスチックも混ざっている。それらは、リサイクルされず不法投棄されたり海に流出させられたりしている。その結果、新興国では、廃プラスチックの受け入れによる生活水準の悪化、プラスチックによる海洋汚染が深刻化している。日本では2019年時点で代替品の製造の補助金が4割増で計上され、2021年6月にはプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律が成立したものの、代替品が普及していないという課題に加えて、日本の12.3%の自治体でゴミ保管の上限を超える処理業者が存在している。以下の提言を通じてプラスチックの有効活用と循環型社会の促進を推進していただきたい。

  • プラスチックの輸出抑制(自治体へ移行し支援)
  • リサイクル設備の導入補助、代替品製造の補助金増額の検討

9.量り売りの推進

 日本のプラスチック類の廃棄量は多く、増加傾向にある。1人当たりのプラスチック消費量は米国に次いで二番目に多く、1人当たり32kgである。特に1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量は、アメリカに次いで世界第2位である。日本では過剰包装や少量の商品が小分けにして販売されているなど、生産活動において過剰にプラスチックが使用されている。

 この問題を解決するために、量り売り店舗の設置の促進を求める。例えば、2016年にデンマークのコペンハーゲンにある100%オーガニックの量り売り専門店(LOS market)では、パッケージを一切使用せずに、ナッツ、チョコレート、コーヒー、野菜、調味料、パスタ、石鹸など食品を中心とする約350種類のオーガニック商品を量り売り形式で、一般の小売店よりも競争力のある価格で販売している。過剰包装や製品を少量に分けて売るなどの過剰なプラスチックの使用を抑制し、消費者が必要な分だけを買うことができる、より環境に配慮した消費の実現が必要である。

テーマ2:移動

1.自転車まちづくり計画策定と公共交通機関との連携による自転車利用の促進と最適化

 自転車は二酸化炭素を排出しない中・短距離移動手段であり、「ラストワンマイル」をカバーする役割として拡充が期待される。ヨーロッパ諸国では自転車を主な移動手段として位置付け、利便性を追求したまちづくりが行われている。しかし、日本国内においては、各地で自転車利用の促進は進められているものの、利用を最適化するためのインフラやルール作りが不十分な自治体も多く、自転車のポテンシャルが十分に発揮されているとは言えない。

 そこで、自転車利用促進と安全性向上のため、国として「全国自転車計画」を定め、各自治体で「自転車まちづくり基本計画」を策定し、実行することを提案する。「全国自転車計画」では国道における自転車道路の整備と、自転車まちづくりに資する財政制度、自転車に関する研究活動への支援に関して基本方針を定めるべきである。また、国は自治体を自転車まちづくりの推進度合いに応じてレベル分けし、必要に応じた支援制度を策定・提供するべきである。両計画においては、自転車利用率、利便性(人々の感想、域内における自転車の平均速度など)、安全性(事故件数)において明確な数値目標を設定する。自転車まちづくりを進める際は、公共交通機関と連携して自転車サービスを拡充し、ICTを活用したスムーズな利用体験を実現することが望まれる。また、自転車利用が選択されるようなインセンティブを設けるべきである。

 このような取り組みを通して自転車利用を促進することで、地域の接続性を強化することができる。また、自動車に変わる移動手段を推進することで、移動手段の脱炭素化に貢献することができる。

2.次世代短距離移動手段の促進と法整備の強化

 電動キックボードが新しい短距離移動手段として注目されており、海外ではサンフランシスコやドイツなどで電動キックボードを取り入れた短距離モビリティの拡充が図られている。しかし、現状日本国内では電動キックボードは二輪車(オートバイ)と同じ扱いを受けており、電動キックボードによる移動に適したインフラも整えられていないため、移動手段としての利便性と安全性が確保されていない。

 電動キックボードによる移動の拡大は都市のスマート化と自動車利用削減による脱炭素化に貢献する。今後の導入を見越した上で、全国自治体には、キックボード利用の安全性と利便性を確保するための制度やルール作りを行っていただきたい。安全のためのルール作りでは、キックボードを自転車と同様に移動手段を補完する役割として捉え、適所に相応のインフラを整備し、事故防止のための交通ルール整備を進められたい。また、他の公共交通機関や自転車まちづくりと連携しながら、移動の利便性を上げるのに適した場所に電動キックボードサービスを計画・導入されたい。

3.バスを中心手段とした減炭素スマートシティの構築

-現状/問題-

 国内の炭素排出量に占める運輸部門は18.6%(2億600万t)を占め、工業部門の34.7%に次いで排出量第二位。国内の移動手段は「自動車」が86%を占め、炭素排出の50%強を自家用車が占めている。各家庭が燃油自動車を所有する現代社会において、1人当たりの移動に対する炭素排出量を減らすための提案をしたい。

-提言-

 国民が「自動車を保有する」ことよりも「乗り物をシェアする=バスやシェアリングモビリティを利用する」ことにメリットを感じられる仕組みを構築する。

①利便性の担保

・バス優先道路の開発といった渋滞を回避できる交通ルールや、アクセス性を担保した便設定(急行、直行便)を設ける。また、各種商業施設に近いバス停を設け、自家用車向け駐車施設よりも早く商業施設に到達できるルートを確立する。

・自宅からバス停、バス停から目的地まで移動するためのシェアリングモビリティ(EV小型自動車、自転車等)を用意する。

②安価性

燃油自家用車を購入・維持することに対する課税強化や、自家用車を持たない家庭に対する税金面で優遇することにより、バスやシェアリングモビリティの利用を訴求しやすい環境を用意する。

③街づくりとバス事業者の収益性

新規誘致する商業施設は都市内局所集中的に開発優遇する。また新規開発を行う住宅も商業施設の近隣を中心とする、ないしは、離れている場合も住宅が集中する構造にすることにより、公共交通機関の移動ルートがシンプル化、また高い頻度でバスを往復させても利用者を獲得でき、運賃が賄える収益構造を実現できる。

【実施メリット】

・利用率の高い移動ルートに対する交通網が整備されることにより、高齢者や子連れ家庭の移動が簡易化し、生活しやすい街が実現できる。

・車に頼り過ぎない、移動しやすい街づくりが実現できることにより、自宅to目的地間の移動における徒歩数が増加するため、現在高齢者の課題になっているフレイル予防にもつなげ、高齢者が元気な街づくり=医療費・介護費に充てる税比率の低い都市を実現できる可能性が高い。

・高齢者が自家用車がない中でも生活をすることができれば、増加している高齢者による運転事故発生抑制にも繋げられる。

4.物流のCO₂排出量を削減するための施策案

 この提言案は、①鉄道輸送の推進②再配達の抑制③ドローンの活用の3つの観点から、物流によるCO₂排出量を削減することを目的とする。

①鉄道輸送の拡充:主流であるトラック輸送を完全排除するのではなく、各輸送方法の強みを活かした効率の良い輸送システムの構築を目指し、その一環として鉄道輸送の拡充を提案する。具体的には鉄道輸送への新規参入を図る中小企業や、物流のIT化を進める企業を対象とした補助金を強化する。また、貨物輸送で削減されたコスト分の割引や、サーチャージ制の導入等、消費者へ還元するシステムを構築する。これにより、消費者の「できるだけ早く届けてほしい」という根本意識を転換し、モーダルシフトの更なる普及を狙う。

②再配達の抑制:コンビニ受取や宅配ボックスを利用を促進し、再配達の抑制をする。現在の補助金制度は周知が進んでいないため情報発信を進めると共に、新規建築の際は宅配ボックス設置を奨励することを提案する。最終的には再配達を有料化することも視野に入れる。

③ドローン輸送の導入:トラック輸送のように小回りが利かない鉄道輸送の課題を補うため、ドローン輸送の導入も並行して進める。具体的には、技術開発や実証実験を進めドローン輸送の安全性を高めると共に、現在の法規制の緩和を求める。

5.長距離移動における移動手段としての電動車導入支援を中心とする諸施策

 現代社会では長距離移動手段が不可欠である。EV・FCV・HVといった電動車は、長距離移動のスマートムーブ実現のために最も重要な手段である。しかし、現状日本における電動車のコストは高く、多くの消費者には手に届かない。電動車をさらに普及させるために、他のガソリン車を購入する際と同等の水準にする程度まで、国の購入時の支援金を引き上げるべきである。また、電動車、特に電気自動車の充電は長い時間がかかるため、それがさらに普及していけば、充電設備を増加させる必要がある。サービスエリアやコンビニ、従来のガソリンスタンドなど、移動の拠点となるような場所への導入支援を推進し、また各家庭や集合住宅へ充電設備を設置する際の支援を拡充すべきである。

 電動車の普及のためには、購入時だけではなく、購入後におけるメリットを感じさせることが不可欠である。電動車の種類に応じて「グリーンナンバープレート」を導入し、街中での電動車の認知向上をするとともに人々の電動車購入へのインセンティブを高めること、またこのナンバープレートに応じ、電動車の専用車線導入や高速道路料金の値下げを検討すべきである。

 なお、電動車の中でもFCVは、コスト・インフラ整備の面で課題が多い。公共交通機関にFCVの積極導入を支援する、水素ステーションを整備するなど、国内外での宣伝を兼ねて重点的にFCVを導入するような都市を設定し、企業・自治体から導入させていくモデルを構築すべきである。

6.蓄電池材料の調達力強化

 電気自動車への移行や定置型蓄電池の普及が進む現代において、蓄電池の重要な原材料であるリチウムやコバルトをはじめ、各原材料を調達するサプライチェーンの強化や代替材料の開発などを行う必要がある。世界銀行の発表によれば、パリ協定の排出削減目標を達成するための取り組みが真摯に行われた場合、特定の電池原材料の需要は今世紀半ばまでに1000%増加する可能性があると試算している。需要の増加は価格の上昇につながり、資源争奪戦が活発化する可能性がある。

 また、豪州やチリ、アルゼンチンなどの比較的情勢の安定した地域に分布しているリチウムはもとより、コバルトの埋蔵量は情勢の不安定なコンゴ民主共和国に集中しており、劣悪な労働環境や児童労働、武装勢力の資金源など様々な問題が考えられる。環境面のみならず、労働や格差など様々な事柄を勘案した上でのサプライチェーン構築を進めるよう提言する。

7.蓄電池のリサイクル方式の確立

 一般的に充電容量が80%以下になると電動車両用の蓄電池(バッテリー)には適さないと言われているが、そのバッテリーをどのように利活用していくのか、枠組みを形成する必要がある。2次利用として有望視されているのが自動車用と比べて電池への負荷が少ない定置型蓄電池としてであるが、明確な方法や基準はない状態である。また、2次利用を終えた蓄電池の再々利用方法や処理方法を産業界大で検討していく必要がある。処分段階においては、自動車リサイクル法を改正するなどして、拡大生産者責任のもとに行われるように提言する。

8.系統接続ルールの改訂

 電動車両・蓄電池の普及をはじめとした広範囲にわたる「社会的電化」によって、CO2フリー電気の社会的需要は増加することが見込まれている。それに対応していくために、CO2フリー電気を効率良く、需要家まで送り届ける必要がある。これに伴い、系統利用ルールも見直していく必要がある。現行の系統ルールでは、系統接続における権利は「先着順」となっており、火力発電をはじめとした古くからある電源が権利を握っている状況である。

 これを、太陽光や風力、水力、地熱など再生可能エネルギーなどの脱炭素電源の接続を優先するものに切り替えるよう提言する。

9.次世代送配電網(スマートグリッド)の整備促進

 電動車両の普及が進み、「動く蓄電池」としての活用が進む将来を考えると停車している電動車両を蓄電池として活用し、電力が過負荷時には給電し、低負荷時には充電するという運用が一般化する。また、電気貯蔵技術の進展と普及によって、電力網における「双方向」での電気のやり取りは増加することが確実である。

 その将来に備えて、送配電設備や変電設備を計画的に更新していく必要がある。現在、電力広域的運営推進機関から連系線と基幹送電線(最上位電圧から2階級)の広域連携系統の整備・更新に関する方向性を示した「広域系統長期方針」を策定している。これと同種のモノをローカル系統や配電系統に対して自治体単位で策定するよう提言する。

10.容量メカニズムの確立と柔軟かつ確実な調整力の確保

 前述の通り、社会的電化の進展によって電力に対する社会的要請はより一層増すと考えられているが、「低廉で良質な電力の安定供給」が大前提である。電力市場の自由化や再生可能エネルギーの大量導入による自然変動電源の増加など様々な問題・課題が山積している。実際に、今年4月に電力広域的運営推進機関が公表した「2021年度電力需給見通し」の結果は次の通りとなった。「電力の供給力の余裕度を示す予備率は北海道と沖縄を除き、7月に3.7%、8月に3.8%を見込む。安定供給には3%が最低限必要で、ここ数年では最も厳しい水準。22年1~2月は東京電力管内で予備率マイナスを予想する。」この様な状況において、電力の安定供給を維持・確保していくためには、ミッシングマネー問題を克服し、容量ペイメントの制度を確実かつ適切に構築し、安定供給へのフリーライダーを排除していくことが長期的に重要である。

 また、太陽光や風力に代表される再生可能エネルギーの拡大による発電量の大幅な変動(東京電力管内において、晴天時の太陽光発電は1日6000万kWh程度の発電が可能であるとされているが、雨天時には1000万kWh程度にまで減少すると試算されている。)に対する調整力(ガバナフリー運転が可能な電源など)を確保し、一般送配電事業者がアンシラリーサービスを健全に提供していくことができるよう提言する。

11.LNG(液化天然ガス)の安定的確保のための政府支援

 前述の通り、社会的電化には「電力の安定供給」が必要不可欠であるが、昨年末から今年はじめまで続いた電力卸市場での価格高騰(最高値:251.0円/kWh、2020年度の年間平均:11.8円/kWh)は、一般的にLNG(液化天然ガス)在庫のひっ迫が直接的な主因であると言われている。各地域で予備率が1~2%程度になることも多発し、電力供給は綱渡りの状況を強いられた。LNGはわが国の電力の約4割を占めており、LNG依存度の高さが続く限り同様の事態が再び起きる可能性は十分にある。ただ、LNGは石炭や石油よりも環境負荷が小さく、カーボンニュートラルを進める上では、長期的にはゼロにする必要があるが、短期的には代替火力として維持、又は増やしていかねばならないのが現状である。

 LNGは-162℃という超低温で液体にして輸送・貯蔵するため、長期保存に向かず、わが国の発電用備蓄量は2週間程度(石油の備蓄量は200日超)である。輸入したLNGが受け入れ基地のタンク容量を超えれば安価で転売せざるを得ず、多額の転売損失を計上することとなる。石油のように、国家備蓄を検討するか、余裕を見込んで調達を行なった発電事業者に対して、損失を被った場合の救済措置などを制度・システムとして構築することを提言する。

12.水素の拡大利用における都市ガスネットワーク活用への熱量バンド制の導入

 カーボンニュートラルを進めるうえで、ガス・エネルギーの脱炭素化は急務である。基本的にガスを燃やせばCO2が出てしまい、脱炭素ではなくなってしまうが、水素を一程度混入することによってCO2の排出を抑制することができる。都市ガスは燃焼速度と発熱量を表すウォッベ指数によって分類されており、都市ガスの主流は「13A」グループである。当グループに属する都市ガス最大手の東京ガス社の発熱量45MJ/N㎥では、約22%まで水素(12.8MJ/N㎥)を混入してもJIS規格に適合する。

 上記を実現するためにも、現在の標準熱量制から欧米などで採用されている熱量バンド制への移行を進めるよう提言する。熱量変化に伴う需要設備の改修が必要ではあるが、水素のロジスティクス費用を低減すると共に、環境負荷を低減し、産地によって異なるガスの発熱量に対応しやすくなり、ガス市場のより一層の活性化にも寄与できる。

テーマ3:住む

1.IT技術を活用したマテリアルパスポートの構築とサスティナブルな建築物の評価認証制度の確立

 この提言によって、サスティナブル-ポジティブな建築物の評価認証制度を確立することができる。加えて、木材住宅の炭素固定の長期保証と解体時に発生する木材のマテリアル利用による炭素固定の促進に繋がる。改正建築物省エネ法によって小規模建築物の省エネ基準への適合等の説明が義務付けられたが、日本の省エネ基準は建築のライフサイクルアセスメントの評価ではなく、非常に狭義なものである。しかし、ライフサイクルアセスメントの評価の根拠となるデータは記録されていないのが現状である。この評価の根拠となるのが、今回提言内容のマテリアルパスポートである。
 マテリアルパスポートの存在によって、建築物を建築時の再生材利用率や材料性能、サプライチェーン上で生じたCO2量、解体時の再生材創出率など、建築のライフサイクルアセスメントの実施が可能となる。またデータをブロックチェーン化することによって建築物の寿命以上の期間に渡って、使用材料データ等が確実に記録される。このデータを閲覧することによって解体予定の建築物の使用材料を容易に把握することができ、解体作業前に材料の再利用計画を立てることができる。そして再利用による材料の行き先等も記録されるため、木質バイオマスの炭素固定の長期保証として活用することができる。

2.環境省の常設部署として「市民電力推進部」の設置~地域新電力促進の効果的利用に関する提言~

 この提言によって、環境省に対し環境省下部組織として市民電力普及に関する統括運営部署の設置を求め、2050カーボンニュートラルへの歩みを地方創生にも活用することで一石二鳥の発展への足掛りとする。また本提言は地域新電力をへの偏った支援ではなく、現状不利な環境にある市民電力への援助の底上げによる全国的なグリーンインフラ増進を目的とするものである。

市民電力のメリット:再生可能エネルギー事業による利益を外部事業者でなく地域に還元することで、地域活性化に貢献し、かつ全国規模での再生可能エネルギー拡大の後押しとなると期待。

現状の問題と解決策:

1,一般市民の電力に関する理解が浅く、新たな選択肢や事業性に気づけない。

受動的なエネルギー利用はカーボンニュートラル達成への足枷となる可能性がある。

→新設部署主催で市民・事業者を対象とした勉強会を開催することで電力会社のシフトや市民電力参入のハードルが下がると期待。地方への利益還元の理解の普及は全国規模の再生可能エネルギー拡大の第一歩となる。

2,地域新電力を補助する公的機関が存在せず、事業性・スピード感共に外部参入型の事業者に劣るため淘汰される可能性が高い。

→新設部署が市民電力に関する相談窓口の設置、補助金、地方行政・企業・市民電力事業者の

コネクション斡旋を統合して行うことで競争力の獲得を目指す。

3,地域新電力は歴史が浅く信用を得るのが困難。

→市民電力事業者への公的認証制度を実装し環境省下部組織が発行することで信用度の向上を図り、市民の理解と市民電力への転換を進める。

今後の展望として地方自治体へ同様の部署の設置義務化を求める。

期待される効果:市民電力参入への負担軽減による全国規模の再生可能エネルギー拡大により2050カーボンニュートラルの実現を後押しするとともに、今後過疎化による衰退がさらに深刻化すると考えられる地方において地域循環型経済の構築に寄与し、地域活性化への大きな足掛かりになると期待される。

3.既存住宅における省エネ改修の推進

-現状/問題-

 新築住宅に関しては、エネルギー基本計画(平成30年)において、「2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」としているが、住宅ストックの省エネルギー化は積極的に進められていない現状にある。2018年時点で、総世帯数約5,400万世帯に対し、住宅ストック数は約6,200万戸であり、量的には充足している。その中でも断熱性能に関して、建築物省エネ法(平成28年)の現行基準に順ずる住宅ストックは10%と、住宅ストックの断熱性能、省エネルギー性能の強化が求められる。

-提言-

・部分的省エネ改修への補助、改修におけるメリットの可視化が容易になる費用対効果シートの作成

・2050年までに省エネ改修が行われていない賃貸住宅の 大家に対して貸出不可を義務付ける

・中小工務店への省エネ改修教育の推進。省エネ改修に 関しての教育が終了した企業に補助金の支援

アウトカム:この提言によってZEHを行えるような富裕層だけでなく省エネ改修を始めたいと考えている人々にも取り組めるような仕組みができる。また、賃貸物件の省エネ改修義務化により認知度に関係なく確実に省エネ改修を進める事が出来る。リフォーム業界は中小企業の比率が多いことから中小企業の活性化、また地域の活性化にもつながる。

4.HEMSの普及促進

 HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)はエネルギーを見える化し、最適制御を行うシステムである。HEMSの普及は2.8%に留まっており、HEMSの認知度と普及に課題がある。HEMSを用いることによって家電の自動制御によりCO2排出量の減少とAIによる災害対策機能も見込める。普及の上の問題点は認知度と補助金制度の活用が上手くいっていないことである。また普及後の問題点として生活ビッグデータを活用した街づくりやサービス開発が期待されるが見通しを立てていない。

 ・脱炭素住宅予算の改正 ZEHと太陽光パネルや蓄電池の普及と合わせ,必要な自治体に必要な予算を充てる。
・成功事例の分析と公示 大阪万博をAIと脱炭素住宅の急新年としHEMS普及を促す。
・政府が異なる企業間のHEMSによるビッグデータを形成そしてサービス開発を主導して行う。

アウトカム:2050年に脱炭素社会の達成、自然災害を乗り越えて住み続けられるホームタウンを全国につくることへ寄与する。

5.22世紀に残す持続可能なオープンスペースの増加

 空き家解体後の土地利用は駐車場利用であり、ヒートアイランド現象の一因であり、脱炭素化・環境対策が疎かになっている。この提言により、緑地化・共有地化の概念を取り入れ、法整備により空地にかかる税を見直す。所有地が土地利用を管理された緑地にすると免税される。または、補助金の対象とされる。

アウトカム:2030年までに共有地を増やす開発へ住宅メーカーや各省庁がシフトし、快適に住み続けられるホームタウンを全国につくる。街の緑地化で脱炭素化が進み、ゼロエミッションが推進される。空地の緑地化により、維持管理のための雇用が生まれる。

テーマ4:食

1.日本の農林水産業をより持続可能なものに

-現状/問題-

私たちの消費活動は気候変動へ大きな影響を及ぼしている。最も身近に行っている「食事」もその1つであり、食料供給システム全体におけるGHG排出量は世界の総排出量の21~37%を占めている。

また、日本の農林水産業の課題であり、カロリーベースで38%(2019年度)という低い食料自給率の原因としても、次世代を担う農業就業者や農地の減少、経営資源・農業技術の断絶などの生産基盤の脆弱化が挙げられる。輸入食材の運搬には当然GHG排出が伴い、持続可能とは言い難い。さらにはFTA・TPP等の締結に伴う関税削減に対する農業者の懸念・不安が高まっていること、そして自然災害や家畜疾病・地球温暖化の進行によって新たなリスクが生じていることが挙げられる。

化石燃料由来のエネルギーに大きく依存し、農薬や化学肥料の大量投入による環境影響と炭素吸収源の破壊を伴う世界の食料供給システムを見直しつつ、日本の食糧供給システムを見直していく必要があると考える。

-提言-

日本の農業の環境負荷をより軽減する

⑴農業のもつ自然循環機能の維持増進を図りつつ、持続的な生産活動と環境への負荷の低減を目的に「有機農業」へ移行するべきである。具体的には、有機農業推進法で設定された耕地面積割合の目標を達成するため、有機農業へ移行するために必要な施設投資を支援するための補助金や奨励金の拡充を行うべきである。

⑵生産性を維持しつつ健康的な食品を提供し、土壌の肥沃度と生物多様性を高めるため、バイオ有効成分を含む農薬の販売を推進するべきである。対して、肥料の環境負荷を減らすために化学農薬使用量やリスクの削減に関する政策目標の設定を行うべきである。

日本の農業を若者にとって魅力的なものに

⑴農業就業者の報酬改善を推進するため、農業就業者の所得の増減に着目した政策目標を立てるべき。またそれを参考に政策決定を行うべきである。例えば「全農業就業者の半分以上が日本の給与中央値(年間約370万円)を超えること」などの政策目標が考えられる。

⑵農業就業者の経営改善のため、各農作物ごとに利益率に着目した政策目標を立てるべき。またそれを参考に政策決定を行うべきである。例えばフランスでは乳業に関して「利益率 4%以上の企業の割合」を政策目標として掲げている。

⑶農業就業者の労働環境改善のため、就業に対する満足度を指標として定量化し、それに基づいた政策目標を立てるべき。またそれを参考に政策決定を行うべきである。

2.日本版プラネタリーヘルスダイエットの作成

-現状/問題-

 The Planetary Health Diet(プラネタリー・ヘルス・ダイエット)は、「EATランセット委員会」の報告書のなかで提示された、『世界16カ国37人の研究者からなるグループが、科学的根拠に基づき、食事と食糧システムのあるべき形と解決方法を全人類に向けて提示した世界初のガイドライン』(引用:知財図鑑)であり、健康にも地球にも優しい食の指標として注目されている。

しかしこれは日本人の食事や生活を基にしているものではなく、健康のための「日本人の食事摂取基準」はあるものの、地球環境のために私たちが目指すべき食のガイドラインは存在しない。

また、平成17年6月に厚生労働省と農林水産省が作成した「食事バランスガイド」には環境配慮の視点が含まれておらず、動物性食品や輸入に依存している食材を多く使用するメニューが提示されている。

-提言-

・科学者や専門家の知見を基に、日本人が目指すべき健康と地球のための食事の基準を、2025年までに作成する。

・カーボンフットプリントやバーチャルウォーターなどを参考に、次の改訂年である2025年までに、環境負荷に配慮する視点を日本人の食事摂取基準や食事バランスガイドに盛り込む。

3.ドギーバッグ(飲食店などでの食べ残しを自主的に持ち帰る行動)の普及

-現状/問題-

日本の食品ロスは4割ほどが外食産業の食べ残しといわれる。あるアンケートの結果では、9割もの人が食べ残しの持ち帰りに賛成しているにもかかわらず、店側に断られるだろうというあきらめなどが原因で、実行に移せているのは2割にも満たないという。また、店側としても、食中毒の責任や風評被害を負うリスク、さらには非正規雇用に頼る営業形態の場合マニュアルの複雑化を危惧するなどの理由で、食べ残しの状態に合わせた柔軟な対応を取ることができていない現状がある。ドギーバッグという取り組みについては、本会議の参加者の中でもまだ認知度が低いようだった。

現在消費者庁、環境省、農林水産省、厚生労働省が示している「飲食店における『食べ残し』対策に取り組むにあたっての留意事項」も、各営業者の判断にゆだねられている部分が多い。ドギーバッグ普及委員会によるガイドラインは詳細に作成されているが、安全性を保障できる持ち帰り環境について具体的な数値を示すには至っていない。

日本の食品ロスを少しでも減らすため、ドギーバックをさらに普及させるとともに客側の自己責任性を明確化し、食べ残してしまいそうな客に向けて店員からの声掛けを促していく必要がある。

-提言-

・根本解決案

①食べ残しを持ち帰り可能な条件・マニュアルを国として設定する

ー梅雨、夏場などを避けた時期、又はその日の気温・湿度条件の設定

ーメニューの特性(加熱具合、汁気の多さ、手づかみで食べるかなど)に応じた条件の設定

ー消費期限や賞味期限のように一品一品検査を基にした、持ち帰りによる食中毒予防の目安

②廃棄物処理費用を変動制に

ー重量に比例

ー水分量が多く焼却に余分な燃料を必要とする生ごみ・食べ残しは追加料金を設定

ー飼料などへのリサイクルは比較的安い料金で実施

・広報案

①マイドギーバックの販売、魅力的な製品化

ーもったいない、という意識が比較的高いと言われる女性向けに、マイボトル、マイバッグのように「mottECO」バッグ(ドギーバッグの日本版新名称として選ばれた)をSNSなどで流行させる。

ードギーバッグ普及委員会の「正会員」「入会費」という響きが若者や学生には取っつきにくいため、気軽に購入できる商品を通して認知度を上げる。

②店舗のドギーバッグ導入支援

 ー飲食店内の客が手に取りやすいところに、あらかじめドギーバックを常備して置くことの推奨。横に店のメニューを掲示し持ち帰りの際の留意点を書き込んでおけば、客も箸や紙ナプキンのように気軽に使用でき、先に述べたような店側の抱えている問題も解消される。2025年までに全国で普及を目指す。

ー食べ残しの持ち帰りだけでなく、通常のテイクアウトの際にも、洗って次回以降も繰り返し使用できるエコなドギーバッグを配布、又は低額で販売する。

ー省庁食堂等でも導入し全国の飲食店の模範となる。2年以内に実現させていただきたい。

4.食品の環境負荷を表す規格の導入・推進

-現状/問題-

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2019年、「土地の利用状況と気候変動に関する特別報告書」を公表した。報告書によると、食料の生産から加工、輸送、消費までを含む世界の食料システムから排出される温室効果ガスは、人の活動による総排出量の21~37%に上る。また、国際環境NGOグリーンピースは、地球温暖化を1.5度までに抑えるには、現在の肉や乳製品の消費を、2013年度の消費量と比べて、世界平均で半分にする必要があると分析し、プラントベース食品への移行を訴えている。しかし、食料生産による環境負荷は、国内ではそこまで認知されていないのが現状である。食品による環境負荷を日常的に目することができれば、消費・生産の双方で関心が高まることが期待される。

-提言-

・食品企業の「エコリーフ環境プログラム」への参加を促進。これにより、企業は、商品のカーボンフットプリントを算出し、食品のラベルに表示ができる。2030年までには義務化する。

・プラントベース食品の認証制度の導入。農林水産省はベジタリアン・ヴィーガン向けの「ベジJASマーク」制定を目指しているが、同時に、一般消費者向けに環境配慮を示したマークの制定も必要である。また、プラントベースが100%ではない食品についても割合を示せるような、ラベルマーク制度の導入を求める。特に、原料が見えにくい加工食品への表示を推進する。2030年までに実施する。

5.食品への電子タグ(RFID)活用の推進

-現状/問題-

食品ロス削減に向けて、経済産業省では2019年から、電子タグ(RFID)を用いた実証実験を行っている。食品に貼り付けた電子タグに流通経路や温度情報などを登録することで、消費者がトレーサビリティや鮮度について把握できるとともに、収穫から時間の経過した食品や、賞味期限の近い商品を自動的に値引きするダイナミックプライシングも可能となる。また、農林水産省の資金援助により、2004年に野菜の農薬散布を記録する実証実験が行われている。いずれも本格的な活用には至っておらず、資金援助も含めた事業の推進が求められる。

-提言-

・生鮮食品に電子タグを貼り付け、鮮度の情報を記録する。小売側では、納品からの日数ではなく、鮮度によって販売管理ができるため、食品ロスの削減が見込まれる。5年以内に実施する。

・生鮮食品には、生産・輸送時のカーボンフットプリントを記録し、消費者が選択的に購入できるようにする。実証実験を行い10年以内に実施する。

・農作物については、電子タグに農薬の使用状況を記録し、消費者に開示する。

・大手スーパー・コンビニにて、電子タグを用いたダイナミックプライシングを導入する。値引きによって食品ロス削減ができるため、消費・小売双方にメリットが生じる。5年以内に導入する。

6.食品ロス問題を身近に感じられるような情報発信を

-現状/問題-

 食品ロス削減のため、消費者庁では「てまえどり」や「おいしいめやす」の普及キャンペーン、クックパッドでの「もったいないレシピ」の公開などを行っている。しかしその認知度は、本会議の参加者においても高くはない。生活の中で自然と目に入るような取り組みが必要である。

-提言-

・賞味期限の古い商品から「てまえどり」するステッカーを、現在掲示しているコンビニ4社に加えて、大手スーパーマーケットにも配布。消費者に広く啓発を行う。2年以内の普及を目指す。

・賞味期限は廃棄期限ではないことを示す「おいしいめやす」のポスターを、全国の公共施設やスーパーマーケット・コンビニエンスストアに掲示する。5年以内に実施する。

・「もったいない」の視点がなくても作ってみたくなるような、カラフルで食欲をそそるようなレシピを発信する。例えば、料理研究家やインフルエンサーとコラボしたり、若者に人気のInstagramやTikTokを用いるなどの工夫を施し、拡散を目指す。

・スーパー・コンビニと協力し、既存の製品の製造過程で廃棄されている部位(野菜の皮など)を使った商品開発を促進する。販売時に、環境に優しい商品であることを明記する。

テーマ5:産業・生産

問題点と提言の整理

A.生産活動の脱炭素化のための提言群(直接的)

1.第6次エネルギー基本計画に対する電源構成の見直し(再エネ100%)

-現状/問題-

 日本の温室効果ガス排出量の約9割はエネルギー起源CO2であるため、エネルギー政策は極めて重要である。ところが、2021年7月21日に発表されたエネルギー基本計画の素案は、2030年までの温室効果ガス削減目標を2013年比46〜50%として、2030年の電源構成では、再エネ36〜38%、原子力20〜22%、石炭19%、LNG20%、石油等2%、水素・アンモニア1%とした。しかし、既存の政府のエネルギー政策には、次の問題点がある。

①科学者によれば2030年46-50%削減という水準はパリ協定1.5℃目標に整合しない

②最も環境負荷が小さく、最も注力されるべき省エネを過小評価している

③パリ協定1.5℃のためには遅くとも2030年までにゼロにすべきと科学者が指摘している最大のCO2排出源である石炭火力を19%も温存し、天然ガス火力のフェーズアウト方針もない。化石燃料は大気汚染を招き、健康被害につながっている(WHOは大気汚染由来の健康被害で年間約700万人が呼吸器疾患や虚血性心疾患で死亡しており、クリーンな再エネ利用を呼びかけている)。また、化石燃料の採掘に伴う自然破壊や人権侵害、化石燃料運搬に伴う環境破壊(モーリシャスの重油流出事故等)の問題、化石燃料利用をやめずに気候変動が進行した場合の大量絶滅の問題も深刻である

④事故リスク、核廃棄物処理、コスト高、環境正義と都市地方間格差、世代間衡平性、技術的・政治的な実現可能性、温排水による周辺生態系への悪影響、労働者の被爆という観点から、問題の大きい原発を維持拡大しようとしている。

⑤比較的環境負荷の小さい再エネについての目標値が低すぎる。再エネの環境負荷を最小限に抑えるためのゾーニングや地元住民合意プロセスが十分でない

⑥化石燃料由来の水素・アンモニアの利用の余地を残していることで化石燃料依存が続くとともに、すでに実用化されている現実的な対策である省エネ・再エネ強化を先延ばしする懸念がある

⑦経済合理性の髙い省エネや、最もコストが安くなると見込まれる再エネよりも、安全対策や炭素価格の反映によってコストが高くなると見込まれる原子力・化石燃料をより重視しており、総じて社会全体のエネルギーコストが大きくなる

⑧世界で拡大を続ける再エネに消極的で、今後世界で衰退する原子力や化石燃料に積極的だが、それは日本企業の利益のための経済戦略としても失敗してきた(以前、日本の太陽光発電モジュールは世界シェアの半分以上を占め、1位だったが、政府が原発と化石燃料に偏重し、海外が再エネ大量導入に舵を切る中で、2012年にはトップ10から転落し、2018年の世界シェアは1.2%まで落ちている)。近年、Appleのように、取引先のサプライチェーンのすべての企業が再エネ100%を達成するように求める動きも広がっており、原発と化石燃料を使い続ける日本の企業が、国際的なサプライチェーンから排除されかねない。

-提言-

S+3Eのみならず、気候正義を実現させる観点から、日本のエネルギー政策を次の通り見直すことを求める。

①国際的な科学者グループClimate Action Trackerの分析を踏まえ、パリ協定の1.5℃目標に整合させるため、温室効果ガス排出削減目標は2013年比で2030年までに62%以上削減としこれに沿うエネルギー政策とすることを確保すべきである。

②2050年に向けて、日本で再エネ100%を実現させるとの目標を設定し、これを可能とするための政策をとること。日本が2050年までに電力部門のみならず一次エネルギーの再エネ割合を100%にするシナリオ・ロードマップは、自然エネルギー財団、JUST(未来のためのエネルギー転換研究グループ)、WWFジャパン、気候ネットワーク、Jacobsonなどによって示されている(送電網整備にかかるコスト計算や、1時間ごとの気象データを用いた発電量のシミュレーションをした上で「再エネ100%は可能」と結論づける等、シナリオごとに特色がある)。化石燃料+原発+再エネでカーボンニュートラルを実現するという選択肢と、再エネ100%でカーボンニュートラルを実現するという選択肢がある中、上述した問題点を踏まえれば、再エネ100%の方針を採用すべきである。また、再エネ導入推進にあたっては、これが自然生態系に与える影響を最小限に留めるためのゾーニング等を進めるべきである。

③国際的な科学者グループClimate Analyticsの分析によると、1.5度に整合させるためには、2030年の電源構成における再エネ電気の割合は60%以上にし、石炭火力発電はほぼゼロにする必要があり、ガス火力発電も2038年にはゼロにし、2040年までに発電部門を実質排出ゼロにする必要があるとされている。2030年のエネルギーミックスは、かかる科学的な分析を踏まえ、2030年の電源構成において、石炭火力はゼロ、原発はゼロ(※)とすべきである。

これらの政策転換によって、パリ協定の1.5℃目標の実現に貢献できる。また、NewClimate Instituteによれば、日本が再エネ100%をめざす場合、年間6万7000人の雇用増加のチャンスを得て、大気汚染による早期死亡リスクから年間1万5000人を救うことができ、化石燃料輸入コストを3.7兆円節約することができる。

※安定的なエネルギー供給のため、必要最低限原子力発電の活用を求める意見も参加者の中で一部存在した。

2.カーボンフリー水素技術の確立

 脱炭素社会に向けて各業種、業界で作成している計画では、エネルギー転換、革新技術に「水素」を利活用した方策を掲げているものが多数存在する。しかし、水素を活用するにあたって以下の課題が挙げられる。

・生成から貯蔵、輸送、使用に至るあらゆる場面で技術的な課題が多く残されている。

・水素の調達安定化のため国外で安価に生成されたものを輸入する計画があり、生成過程でCO2が相当量排出される。

・開発、導入初期の供給不足・インフラ未整備によりコスト高となり、計画に遅れをきたす可能性がある。

これらの課題を一元管理し、産官学連携のもとに世界を牽引する水素活用先進国を目指すべくプラットフォームの設立を提案する。これにより技術開発における基礎研究(大学や研究機関)と実証研究(産業)のスムーズな連携とそれに合わせた補助金交付(政府)を行うことが可能であると同時に、同種の研究に対する横のつながりを強化し、連携を推進することで技術開発の加速化が期待できる。また、インフラ整備に関しては、需要に十分に対応できるよう各業界の計画を掬い上げ、必要十分な供給を行う仕組みを整えることを強く要望する。

3.あらゆる業種・業態の事業者における脱炭素化の促進

 2018年6月に環境省が行政機関として世界初のRE100アンバサダーに参画し、その取り組みを進めていることと考えているが、他省庁や下部組織に至る全ての行政機関が率先して取り組みを加速させることで、民間企業・団体における意識レベルの向上、ひいては国民全体の環境意識の向上に繋がることと考え、以下を提案する。

①環境省主導で行政機関(含む下部組織)のCO2排出量の算出、報告を義務付け、削減目標の策定、管理を行う仕組みを整備する。

②文科省にて学校運営に関わる脱炭素化ガイドラインを作成し、公立・私立問わず学校単位で脱炭素化への取り組みを行う。教職員だけでなく生徒にも環境に配慮した行動を促すことで環境教育の一環になる。取り分け高校・大学では学校全体の脱炭素化に係る計画・管理のフェーズにも学生が参加できる仕組みとし、ESDに即した実践の場として活用する。

③環境省支援のもと各行政機関においてグリーン調達ガイドラインを作成し、組織運営・活動に関わる民間企業・団体への環境意識の向上へと資する仕組みを整える。

4.大学の脱炭素化・再エネ100%早期達成

 大学などの教育研究機関は、CO2排出事業者でもある(例えば、京都市で第5位の排出事業者である京都大学は、1990年からこれまでにCO2排出が100%近く増加している)。大学自体が大きな排出源であり、先進的な研究・教育の役割を自任しているにもかかわらず、2050年カーボンニュートラルに向けた大学の動きは低調である。中には、自然エネルギー100%大学を標榜するなどの動きもあるが、ほぼゼロにとどまっている。また、大学の環境対策は大学施設部に偏っており、これに学生がほとんど参加できていない。

そこで、2050年よりもはやくカーボンニュートラル・再エネ100%を達成する目標を掲げ、これに向けた実行計画を策定し、対策を進めることを各大学に要請する。その計画策定や対策実施のプロセスに学生を巻き込むことで、教育的成果も期待されるようにすべきである。

この提言が実現し、実施されると、大きな排出源の一つである大学の脱炭素化が進み、大学の社会的責任を果たすことや、学生のアクティブラーニングの機会確保につながる。

5.蓄電・送電技術に関する開発支援の継続及び一般への啓発

 蓄電・送電は発電と同様に重要な位置付けにある。これらの技術は電気自動車や太陽光発電と連携した家庭用蓄電池などの普及、送電ロスの低減に役立つことが期待されており、2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略においてもさまざまな支援が行われている。技術の産業的な確立に向けこれらの施策が継続・拡大することを希望する。

また、蓄電・送電は発電に対して公に議論されることが少ないように思う。例えば大規模蓄電を用いれば再エネの電力供給の不安定性を低減させることが可能であり、その拡大に大きな役割を持つ。現在、森林・里山開発の観点から再エネの拡大を不安視する声は少なくない。これらの環境負荷を最低限に止める対応策として蓄電技術があることを一般に広く示す必要がある。

6.資源を循環利用する生産

 令和3年6月、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律が成立し、海洋プラスチックごみ問題、気候変動問題、諸外国の廃棄物輸入規制強化等への対応を契機に、国内でもプラスチックの資源循環を一層促進する重要性が高まっている。一方で、2018年以降中国等で廃棄物輸入が禁止となり、アフリカへのプラスチック廃棄物輸出量は拡大し続けている。(2019年:前年比4倍、10億t/年間)

「プラスチック資源循環戦略」(令和元年5月)の策定後、政府で議論が進められている。しかし、先進国の成長の為途上国が犠牲となる構造を迅速に改革しなければ、地球規模の課題解決は出来ず、自国の安全保障や国民の文化的で最低限の生活を担保することが危ぶまれる。段階的にプラスチックを含む全ての包装資材について、包括的に資源循環体制を強化し、製品の設計から廃棄物の処理までに関わるあらゆる主体におけるプラスチック等資源循環の取組(3R+Renewable)をさらに迅速化、戦略を具体化する為、下記を提言する。

①サプライチェーン全体(回収から処理)での再資源化(最終目標:100%)を法律上義務化

1)罰則規定の制定

自主回収が可能となったことを受け、EPR(拡大生産者責任:生産者が製品のライフサイクル全体(原材料の選択、製造工程、使用・廃棄)における環境負荷に対して、一定の責任を負う)を法律上義務とし、果たせていない事業者・企業への罰則規定を設定する。第一に企業名の公布・科料等設定。段階的に業務停止命令や罰金、科料等(刑罰)罰則規定を厳格化。

2)責任範囲

LCAの観点から、サプライチェーン全体で再資源化100%を実現すべく、scope3を視野に含める必要有り。従い、段階的に生産者以外の委託販売業者・代理店・サービス業者等全ての事業者・企業・教育機関等を対象とする。段階的に、プラスチックだけでなく、紙類等を含む全ての包装資材を対象とする。

②再資源化(最終目標:100%)を促進する制度

1)補助金・助成金

現状日本で認知されていない新技術や新しい仕組み等について、政府による、あらゆる企業が参入しやすいスキームの構築が急務。回収から処理までの再資源化計画の提出を求め、実現可能性や情報の透明性等条件を設定し補助金・助成金を付与。中小企業等、経済的に自社のみで対応が難しい企業へは条件を緩く設定し、再資源化の参入障壁を低減する。

2)税制優遇

再資源化100%を実現した企業、あるいは再資源化100%の目標を設定し段階的に減らしていくことが定量的に認められる事業者・企業・教育機関へ、税制優遇措置を講じる。決算書等への明記を義務化、トレイサビリティの担保等を条件とする。

③政府機関及び民間企業による、エビデンスに基づく環境負荷に関する情報の発信を法律上義務化

環境に良いと印象付ける製品が、実際は環境負荷が大きいという事実の周知、それに伴い消費者の行動変容を促すことが急務。

例)欧州や豪州等プラスチック戦略ではリサイクル率100%を掲げているのに対し、日本の目標は60%と比較的低い。サーマルリサイクルは日本でのみ使われる用語。世界では熱回収と称され、リサイクルには当たらない。正確な再資源化(リサイクル)率の公表が必要。欧米ではラミネート(リサイクル不可のコーティング剤)が必須の紙カップや紙容器は再資源化不可であるため、使用禁止の方向が進められている。一方、日本では各社コンビニやカフェにてプラスチックから、より環境負荷の高い紙(再資源化不可)への転換が進められている。

7.炭素税率の引き上げ

-現状/問題-

 現在、地球温暖化対策税として、排出するCO2一トン当たり289円が定められている。High Level Commission on Carbon Prices(2017)によれば、「パリ協定の産業革命以前に比べ気温上昇を2度未満にする目標に一致する明示的な炭素価格の水準は2030年までに50~100ドル/tCO2」である。また、Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector(IEA、2021)によると2050年までにカーボンニュートラルを実現するには、2050年までに2万7500円/tCO2の炭素税を課す必要があると述べている。日本の現在の税率は脱炭素に向けて生活形態や産業構造を転換させるには不十分であると言える。

-提言-

 2030年までに排出するCO2一トン当たり1万円上乗せで課税する。2050年までにはCO2一トン当たり2万7500円を課税する。段階的に税率を引き上げ、引き上げ額は数年に一度見直し調整する。税収は、省エネ設備投資の補助や再生可能エネルギーの普及、石炭火力発電の早急なフェーズアウトに使用する。さらに、それによって失業者となる人々を就労支援によって救済する公正な移行メカニズムやベーシックインカムによる公正な移行の補完、低所得層への負担軽減などに使用することを提言する。

-アウトカム-

 炭素税の税率引き上げによって、CO2の排出削減が期待される。また、排出量取引と比べ、炭素にかかるコスト負担の見通しが立ちやすく、企業の負担に柔軟に対応しやすい。また、価値総合研究所の試算では、税額を10,000円上乗せしても、税収の半分を企業の省エネ設備投資の補助に還元すれば、経済成長は可能だと示している。

8.カーボンプライシングに関する検討状況の公開

 2050年におけるカーボンニュートラルの実現、2030年における炭素排出量46%削減目標を踏まえれば、カーボンプライシングの本格的導入は確実かつ早急に進める必要がある。一方で、導入にあたっては多くのステークホルダーが関わることから、透明性のある議論が不可欠である。それゆえ、カーボンプライシングの導入の検討を計画的に進め、かつ国民の理解・関心を深めるためには、関連する審議会に関する情報公開が重要となる。これを踏まえ、カーボンプライシングに関する検討会の録画映像について、ライブ配信だけではなくアーカイブでも公開することを提言する。

9.排出量取引の導入

 わが国では国レベルでの排出量取引はまだ導入されていない。炭素税は税率を先に決定するため、最終的な削減量をあらかじめ予測することが困難であり、国全体の排出量削減の見通しも立てづらい。一方で、明示的なカーボンプライシングとして排出量取引のみを採用した場合、炭素価格の変動により企業の負担が大きくなる。費用効果的に炭素排出量削減を実現するためには、炭素税と組み合わせる形で、排出量取引を導入することが必要である。 

 上記の議論を踏まえ、電気部門や素材部門など、日本の炭素排出量の半分を占める約130事業所に排出量取引を導入することを提言する。

10.民間の環境投融資機会の拡大

 気候正義を果たす事業や企業への民間投融資の拡大は、産業部門の脱炭素化に不可欠である。家計の資産構成割合の中で最も大きな間接金融を含む全ての投融資行動において、環境や炭素排出を考慮した投融資先の選択を可能にすることは、市民の行動変容や意思表示の機会としても重要である。しかし現在その選択肢や機会は限られているため、日本政府に対して、金融に携わる機関を対象とした下記2事項に関する国レベルの規制の創設を提言する。

①投融資先企業のGHG排出等の情報開示を義務化:

銀行・信用金庫・証券会社・年金機構・保険会社などの金融関係機関に対して、投融資先企業名やそのGHG排出情報、事業内容などを、預金者・投資家・年金納付者・保険加入者に開示・通知することを義務化する。GHG排出情報の他にも、企業のESG性(廃棄物量や地域貢献性,人権など)を示す情報の開示を推奨もしくは段階的に義務化する。

②投融資先選択オプション創設の義務化:

銀行・信用金庫・証券会社などの金融関係機関に対して、預金者・投資家がGHG排出情報を基に、投融資先の企業(個別の企業選択が難しい場合は、投融資先のジャンルやGHG排出のレベルなど)を選択(ダイベストメント含む)できる仕組みの実装と通知を義務化する*。加入の有無を選択できない年金機構・保険会社などに対しては、投融資先に関する年金納付者・保険加入者の要望を取り入れ、その改善を報告することを義務付ける。

*投資先を選択可能な銀行として、ドイツのGLS(Gemeinschaft für Leihen und Schenken:貸すことと贈ることのための共同体)銀行が参考となる。

11.現実的な脱炭素技術への選択的公共投資

-現状/問題-

 政府は2021年6月発表のグリーン成長戦略において2050年カーボンニュートラル実現のための革新的技術として、CCUS、アンモニア火力、各種原子力(高速炉・高温ガス炉・小型原子炉・核融合等をあげ、支援するとしている。しかし、かかる技術には、主に次の問題がある。

気候危機解決のタイムラインに間に合わない。経産省のグリーン成長戦略の技術ロードマップにおいて、2030年に間に合うように技術が実用化され普及する可能性がない(あるいは極めて低い)。中には、核融合のように、2050年にすら実用化が間に合わないものにも巨額の税金が投入されている。CCUSも各種原子力技術も、近い未来に実現すると言いながら、様々な技術的課題によって技術者たちの想定通りに開発が進んでこなかった場合が多くあることを考えれば、政府想定よりも大幅に実用化と普及が遅れ得ることも考慮に入れるべきである。

未確立で不確かな技術開発にリソースを投じることで、すでに確立済みの省エネ・再エネの普及に投じるリソースが目減りする。つまり、実用化済みの省エネ・再エネ対策を遅延させる。よりスピーディかつより確実に排出削減を進めるためには、確立された技術の普及を進める方策をとる方が確実である。

経済合理性と価格競争力に乏しい。CCUSやアンモニア火力、各種原子力技術は、技術が確立したとしても高価であるために普及可能性に乏しく、再エネ電源との価格競争に勝てるとは思われない(例えば事業用太陽光発電は化石燃料火力発電と比べても2030年には最も安価な電源になると政府もようやく認めている)。

CO2削減の確実性や環境十全性、安全性に懸念がある。CCUSの実施には大量のエネルギーが必要であり、単位エネルギーあたりのCO2削減効果は期待され得るほど大きくない。CCSをしたサイトからCO2が漏れていた事例も報告されている。アンモニア火力は大量の窒素酸化物を排出する。原子力関連技術には安全性の懸念も拭えない。

気候正義が確保されない。今の大人世代は、次世代が今全く存在していない技術で何十億トンものCO2を減らすことをあてにしているとグレタ・トゥーンベリさんは批判している。現在の大人世代が排出したCO2とこれによる気候危機の悪影響は、あくまでも現在の大人世代が責任を持って低減する責務を負っている。

-提言-

CCUS、アンモニア火力、小型原子炉・核融合への政策的支援(補助金等)は、既存の政府の政策のように、一様に「推進する」とせず、技術のポテンシャルと影響を評価し、見直し、それに基づいて適切な技術にのみ公共投資をすべきである。かかる検討は、当該技術の専門家だけでなく、省エネ・再エネの事業者、気候正義・倫理学の専門家、環境問題の専門家、公害被害者、次世代の代表を包摂した政府委員会等のプロセスを立ち上げ、民主的な議論をすることによって進めるべきである。この検討は数年ごとに行い、技術開発研究の最新の動向を踏まえて見直すべきである(見込みがないとみなされていた技術でも見込みがでれば公的支援の対象とすることを検討する。また、想定されていた環境問題やコスト問題がブレークスルーされる見込みがでれば、それも公的支援の対象とすることを検討する。逆に、技術活用の見通しが低下した場合には、公的支援の対象から外すことも検討されるべきである)。

また、CO2を減らせると宣伝してきた東京電力が福島第一原発事故を引き起こし、その際の事故処理や被害者への損害賠償を国民負担で相当程度カバーしていることの問題点を踏まえ、民間事業者がかかる技術開発を進めた際に生じた事故の責任はすべて当該事業者に負わせることを確実にする法制度とすべきである。

12.発電技術環境アセスメントの見直し

 環境影響評価法に基づいて、環境アセスメント制度が運用されている。巨大なCO2排出源となりうる事業に対するアセス基準が緩い。例えば、石炭火力発電は11.25万kW未満はアセス対象外で、ギリギリこれを下回る小規模石炭火力が乱立し、汚染排出データの情報公開を拒む例も複数でている(対照的に、風力発電は5万kW以上がアセス対象である)。火力発電、原子力発電、風力・太陽光発電を含む電源開発事業の環境アセスメントにおいて、地元合意取り付けのプロセスが十分でない。環境アセスメント図書が縦覧期間終了後に非公開とされ、火力発電所からの汚染排出データがオープンアクセスになっていない。

かかる課題を環境アセスメント制度について、気候正義の観点から抜本的に見直しを行うべき。その際には、より環境負荷の大きい化石燃料の火力発電所のアセスが最も厳しく行われるようにすべき。また、再エネ開発が地元合意に基づいて環境破壊的でない形で行われるよう、アセスプロセスを見直しすべき。また、同じ地域で複数の再エネ事業のアセスをする場合、それぞれの事業主体がそれぞれ別個にアセスをする必要があるが、これを集合的に実施できるようにし、アセスの効率化と、複数事業がすべて実現した場合の環境影響の評価を適切に行えるような制度の検討を進め、必要に応じて見直すべきである。これによって、より持続可能な形での電源開発が可能となる。

B.生産活動の脱炭素化のための提言群(間接的)

13.経団連 カーボンニュートラル行動計画への提案

 2021年4月に行われた気候変動サミットでのCO2削減目標の引き上げに伴い、「経団連 低炭素社会実行計画」から「経団連 カーボンニュートラル行動計画」に改称する旨、6月15日に提言されたことは評価すべきことである。しかし、2030年度目標を2019年時点で達成した業界が大半を占めていることや、2050年のカーボンニュートラルに向けてはビジョン(基本方針)を示すことに留まるなど、野心的と呼ぶには不十分であると言わざるを得ない。従って、日本産業界の底力を世界に見せつけるべく、以下の項目を盛り込んだ本気の行動計画を策定・発表することを提案する。

 ①フェーズⅡ(2030年度)目標の上方修正(努力目標の作成)と、フェーズⅢ(2050年度)目標の具体的な数値・行動計画

 ②フェーズⅢ(2050年度)目標については、未確立技術の活用を織り込む計画が予想されるが、各技術によるCO2削減可能量や技術開発のフォローアップ体制を開示するとともに開発が遅れた場合のバックアッププランについても言及

 ③カーボンニュートラルに向けて革新的技術の開発は特に重要であるが、技術以外の要素(省エネ、緑地開発、自治体や金融業界との連携など)によるCO2排出削減計画

14.GHG情報開示の義務化

 2050年のカーボンニュートラルを目指すため、国内の約2/3のGHGを排出する産業界に対し、バリューチェーン全体を含めたGHG排出量の開示・削減が求められているが、現状GHG排出情報開示の義務化が年間原油換算で1500kl以上消費する者など、限定的な範囲に留まっていること、環境アセスメントデータの開示期間が短いことなどから、投融資やバリューチェーン構築に際して参照できるデータに制限がある。また、提出データの算出方法は提出者に任せられており、正確性、誠実性に疑問がある。

地球温暖化対策の推進に関する法律を改訂し、段階的(スコープ1のみ⇒スコープ2追加⇒総排出量)に事業規模に関わらずGHG排出情報の開示を義務化するとともに、提出データの監査制度を新設する。またデジタル化を加速させ、GHG排出量のリアルタイム提示や経済指標と同様にメディアでデータ情報を配する仕組みや、環境アセスメントデータの常時オンライン開示の仕組みを整えることを強く要望する。これにより、正確なGHG情報を即座に入手できるようになり、環境負荷を考慮した投融資やバリューチェーンの構築の加速に繋がると考えられる。

15.インセンティブ強化による企業のGHG情報開示の促進

 2050年のカーボンニュートラルを目指すため、国内の約2/3のGHGを排出する産業界に対し、バリューチェーン全体を含めたGHG排出量の開示・削減が求められているが、各企業の自主性に寄与される部分が大きく、資金や人員に余裕がない中小企業では対応が難しい。

これに対し、段階的(スコープ1のみ⇒スコープ2追加⇒総排出量)なGHG排出情報開示の義務化を前提に、先んじて対応する企業に対してインセンティブを付与する仕組みを作ることや(環境経営優良法人の認定や認証マークによるステータス、もしくは税制優遇など)再エネ産業が生み出す雇用増大などの情報を政府から開示することで、GHG情報開示を促進させる。

中小企業でも自発的にGHG排出情報の開示を行い産業全体の透明性を確保することで、融資や消費、採用において環境影響を考慮した経営を行う企業優位な社会を構築し、国内総GHG排出量の削減に向けた取り組みを加速させることが可能である。

16.国際炭素税の導入

 カーボンプライシングの導入状況は各国によって差があるため、わが国での本格的な導入に際して、カーボンリーケージの問題や産業競争力の維持が課題となる。このような問題への対応策として国際炭素税があり、EUは2026年からの全面実施を決め、アメリカ合衆国でもバイデン政権が公約の一つとして掲げている。これらの現状を踏まえ、わが国においても国際炭素税を導入することを提言する。これにより、取り組みが遅れている国における温暖化対策を促し、カーボンニュートラルに向けた国際潮流の中での日本の存在感を高めることができる。

17.発電インフラ輸出方針転換

 日本は化石燃料の火力発電インフラや原子力発電インフラの輸出を国の成長戦略に位置づけ、官民で進めてきた。日本の火力発電インフラ輸出の方針によって、途上国で巨大なCO2排出源が増加した。また、インフラ開発の過程で、現地住民に深刻な人権侵害が発生し、現地の政府の人権委員会が勧告を出す事態も発生しているが、日本政府やJICA、JBIC、日本企業は人権保護のための適切な対応をとってこなかった。また、原子力発電インフラの輸出はビジネスとしても成功しておらず、また現地に事故リスク等の種々の問題をもたらすことになる。

検討着手したものも含め、今後、一切の化石燃料火力発電インフラ及び原子力発電インフラの輸出推進政策をやめるべき。代わりに、途上国に対して、省エネや、再エネインフラを増やすための技術資金協力を行うべきである。これによって、日本だけでなく、途上国の、健全な脱炭素化に貢献できる。小規模分散の再エネ普及は、大規模集中かつ環境汚染度の高い石炭火力発電等と異なり、環境十全性も比較的高い。また、小規模分散型の再エネ設備は設置が容易で、途上国のエネルギー貧困の解決にもスピーディに貢献できる(原発は準備から運転開始まで15年かかる場合もあり、途上国のエネルギー貧困の解決には遅すぎる。また、原発は核兵器に転用可能な物質の問題もある)。世界で約50の途上国が再エネ100%目標を掲げており、ニーズもある。

C.過剰生産をなくすのための提言群

18.過剰生産に対する規制

 大量生産・大量消費からの脱却は、産業界からのGHG排出削減と資源の持続的な利用のために必要不可欠であり、消費の抑制と共に過剰生産の抑制を行っていく必要がある。しかし現在は、生産者側の過剰生産を規制するルールがないため、日本政府に対して、産業部門(特に第2次産業)と卸売業・小売業などの流通業者を対象とした、下記2事項に関する国レベルの過剰生産規制の創設を提言する。

①製品の長寿命化:製造者(特に耐久財と半耐久財)に対して、生産責任のある製造者の表示、修理サービスの拡大および対応期間の長期化、消耗部品の交換による長期利用を想定した設計などを通した、製品の耐用年数の延伸を義務づける。

②在庫廃棄の禁止:製造者の元に製品の余剰在庫が発生し廃棄を行った場合は、廃棄量に応じた科料を製造者に課す。また、卸売業および小売業者の元に製品の余剰在庫が発生し廃棄を行った場合には、廃棄量に応じた罰則金を卸売業・小売り業者に課す。なお、海外の基準においてはリサイクルとみなされていない、焼却によるサーマルリサイクルについては、廃棄とみなす。

※なお本規制の詳細設計に当たっては、フランス政府のLOI du 10 février 2020 relative à la lutte contre le gaspillage et à l’économie circulaire(循環経済法)が参考となる。食品・非食品などの製品の種類によって異なる規定や実施目標年が決められていることを模範に、各製品の特性(耐久財・半耐久財・非耐久財など)に応じた細やかな規制が定められることが重要である。

19.過剰消費を煽る広告の規制

 大量生産・大量消費からの脱却は、生活や産業からのGHG排出削減と資源の持続的な利用のために必要不可欠である。消費者が過剰消費を抑制するためには、消費者の意識のみならず、生産者側が自らの利益のために過剰な消費欲を煽る行動も規制される必要があるが、現在はそのようなルールがない。よって日本政府に対して、産業部門(特に第2次産業)と卸売業・小売業などの流通業者を対象とした、下記2事項に関する国レベルの広告規制の創設を提言する。

①量的規制:

 マスメディアに対しては、企業の通常広告に対して一定の割合で、気候変動や社会問題について啓発する広告(例:公共広告機構ACのCM)の掲載を義務付ける

②広告課税:

 特に環境負荷が大きい消費財やサービス(例:牛肉の食べ放題,再生可能エネルギーが一定割合以下の電力販売,環境性能が一定割合以下の自動車など)の広告については、企業に広告の掲載税を課す。

③質的規制:

 消費者金融や酒類など一定の注意喚起の掲載が義務付けられている広告(例:消費者金融の「計画的に借りましょう」など)を参考に、「必要性を考え計画的に買いましょう」といった過剰消費への注意喚起を行う文言や製品のカーボンフットプリント、当該企業のGHG排出量情報など、過剰消費の抑止や環境負荷を考慮した消費行動を促す情報を広告に表示することを義務化する。

20.過剰生産能力の縮減促進

 工業製品が既に十分普及した現在においても大量生産からの脱却が困難な原因として、企業が有している過剰な生産能力を維持活用する必要性に駆られていることが挙げられる。よって日本政府に対して、産業部門(特に第2次産業)を対象とした、下記2事項に関する国レベルの過剰生産能力縮減促進策の創設を提言する。

①適正生産能力見直しの義務化:

製造業の各企業に対して、現状の生産能力の余剰率(非稼働率)や、製品需要のシナリオ予測分析による生産能力の見直しを義務付け、生産能力の適正化(企業提携や広義のM&Aなども加味した過剰生産能力の縮減)を促すための基礎情報の可視化と過剰生産能力把握の機会とする。

②過剰生産能力縮減の資金援助:

過剰な生産能力に当たる工場や生産設備の閉鎖や廃止を企業が積極的に進めることを要請し、その資金の拠出が難しい企業については、「グリーン・イノベーション基金」や「公正な移行基金」などを運用しこれを援助する。また①の生産能力見直しにかかる資金に関しても、援助の対象とする。

※なお本規制の詳細設計に当たっては、中国政府の鉄鋼業における過剰生産能力解消に向けた国家的取り組みが参考となる。

21.非営利型投融資の拡大と促進

 大量生産・大量消費からの脱却の障壁として、産業部門の企業は株主や投融資元への利子や配当を支払い続けなければならず、その分の余剰利益を上げ続けなければならないという圧力に晒されていることが挙げられる*。産業部門の資金調達が無利子・無配当な非営利型で行われたものに置き換わっていくことは、その圧力を低下させることができると考えられるが、現在はそのような資金提供をしたい投資家や市民がいたとしても、それを選択できる選択肢が不足している。よって日本政府に対して、無利子・無配当による非営利型資金調達を促す、金融部門を対象とした国レベルの規制と促進策の創設を提言する。

①規制…非営利型投融資オプション創設の義務化:

直接金融において、証券を発行する企業には、無利息の社債や無配当の株式の先行販売を義務付ける。間接金融において、銀行や信用金庫などの金融機関には、無利子型(もしくは利子選択型)の長期預金の創設と、無利子型預金の預金者への説明を義務づける**。

②促進策…非営利型・長期投融資額の所得控除:

長期の無利息社債や無利子型預金については、その投融資額や返済期間に応じて、投融資額の一定割合(寄付金の控除制度を参考に、寄付金よりも相当低い割合)を預金者・投資家の所得から控除する、税制優遇策を講じる。

*利子がもたらすマネーの増殖が、無限の生産拡大やそれによる環境破壊の根源であるという主張は、『エンデの遺言-根源からお金を問うこと-』(2000,河邑 厚徳+グループ現代)の中で紹介された『利子ともインフレとも無縁な貨幣』(1987,マルグリット・ケネディ,ゲゼル研究会の雑誌「自由経済研究」第8号・第9号や「人間の研究」第74号で一部日本語版閲覧可能)が参考になる。

**利子を選択可能な銀行として、ドイツのGLS(Gemeinschaft für Leihen und Schenken:貸すことと贈ることのための共同体)銀行が参考となる。

D.産業部門従事者の救済のための提言群

22.公正な移行メカニズムの導入について

 私達が提言している産業転換、生産の削減が実現した場合、必然的に主に製造業に関わる労働者の雇用が失われることになる。これに伴い職を失う人々を犠牲者にしない、誰一人取り残さない、それが私達の望みであり、この項の目的である。具体的には、就労支援によって失業者を救済する「公正な移行メカニズム」を日本に取り入れることを提言する。公正な移行メカニズムとは、欧州委員会による化石燃料の関連産業に依存する地域への経済的な影響を緩和するもので、2021~2027年に総額1,000億ユーロ以上の投資誘導を目指すメカニズムである。特に、このメカニズムの3本柱の一つである「公正な移行基金(EU資金から新たに400億ユーロを拠出し、影響の大きい地域の労働者の技能習得支援、雇用創出を見据えた中小企業やスタートアップ企業支援、環境に優しいエネルギーへの投資支援を実施)」を日本にフィットさせ取り入れることを提言する。予算としては、EU資金と異なり、EUの社会気候基金のように、炭素税などの推進によって生まれる資金の一部を充てると良いと考える。つまり、製造業を中心とする、産業転換などにより、職を失う人々に対しての就労支援、新たな雇用機会を生む為の産業創出を目的とした基金の設立を提言する。担当機関は、経済産業省と厚生労働省とすることを望む。

23.ベーシックインカムによる公正な移行の補完

 産業転換などにより、失業者となる人々を就労支援によって救済する公正な移行メカニズムだけでは、取り残され収入が得られない方が発生すると考えられる。このような方を救う為に、ベーシックインカムのように月一律での支援金の支給を望む。またこれの支給対象に生産性の低い方で環境負荷の高い産業に従事する方が自ら職を辞して、尚且つ、職がない場合にもこれの対象とすることを望む。この目的は無駄な生産を減らし環境負荷を削減することにある。これらの実現により犠牲者を出さない産業転換の推進を目指す。これに伴い、この支援金支給の為の基金の設立を提言する。担当する機関は厚生労働省として、支援金額は1人あたり10万円ほどとし、居住の補助、家族がいる場合、追加の手当があることを望む。予算としては、EUの社会気候基金のように、炭素税などの推進によって生まれる資金の一部を充てると良いと考える。

E.脱炭素化と生態系保全の両立のための提言群

24.脱炭素技術サプライチェーンの環境影響払拭ガイドライン導入
 脱炭素のために様々な技術や製品が登場しているものの、製造過程を通して環境影響が低いとは言えないのが現状である。例えば、電気自動車のバッテリーには原材料としてレアメタルをはじめとする鉱物資源が大量に使用されており、採掘や精錬に伴う熱帯林破壊や大気汚染などが途上国を中心に報告されている。そこで、SDGsの12番「つくる責任 つかう責任」に則り、原材料調達から販売までを通して環境に配慮したガイドラインの策定を求める。消費者の目に見える部分だけでなく、製造過程においても環境に配慮した製品であることを徹底することで、真の意味での脱炭素を目指すべきである。

25.脱炭素と生物多様性保全の統合的戦略
 気候変動対策の一環で推進されている再生可能エネルギーの導入は、重要な取り組みではあるものの、生態系への影響を評価・モニタリングした上での開発が必要不可欠である。例えば、洋上風力発電は、建設や運用に関して多くの経済的利点を有している一方で、海洋生態系へ様々な影響を及ぼすことが懸念されている。洋上風車の設置は、海洋生物の生息場所を減少させるばかりでなく、局所的な海洋環境を変化させ、さまざまな海洋生物の生存や繁殖に影響をもたらす可能性がある。また、海と繋がりの深い里山の生態系を破壊する形でのメガソーラー施設の建設事例も後を絶たず、生物多様性を脅かす形で進められているのげ現状である。そこで、エネルギー政策や気候変動適応・緩和に寄与するNbSやグリーンインフラといった生態系を用いたアプローチなどの取り組みなども活用しながら、「カーボンニュートラル2050」とともに、「人と自然の共生」も達成できるような気候変動対策と生物多様性保全の両立を目指した戦略の策定を求める。

テーマ6:総合

A.気候変動対策の強化

1.温室効果ガス排出削減目標の引き上げ、2040年目標の設定

 日本政府の温室効果ガス排出削減目標は、2020年までに2005年比で3.8%以上削減、2030年までに2013年比で46-50%削減、2050年までにカーボンニュートラルの3種類がある(2020年目標は超過達成の見通し)。これらの目標をめぐり、3つの提言がある。

①既存の政府の2030年目標は、パリ協定の1.5℃未満に必要な日本の排出削減量と、世界における衡平性や気候正義とを踏まえた場合に、低すぎるとの分析がある。たとえば、国際的な科学者グループであるClimate Action Trackerは、62%以上の削減が必要と分析している。科学的知見と気候正義に基づき、少なくともこの水準の目標に改めるべきである。

②2050年までの長期的な脱炭素を着実に進めるためには、2030年と2050年の中間である2040年の排出削減目標も必要であり、各国では2040年目標の検討や策定が進んでいる。しかし、日本においては、2040年の目標について検討が行われておらず、予定もされていない。このため、2040年の排出削減目標について検討する場(審議会等)を政府内に立ち上げるべきである。

③2050年カーボンニュートラル目標は、1.5℃目標のために世界全体で達成すべき目標であって、日本の責任と能力を考えれば、2050年よりも前(例えば2045年)にカーボンニュートラルをめざすと宣言して然るべきである(実際に、ドイツ等複数の先進国が2050年よりも前にカーボンニュートラルを実現する目標を持っている)。したがって、日本は、カーボンニュートラルの目標を前倒しするよう、検討を始めるべきである。

2.気候変動外交の強化

 気候変動が重要な外交テーマになっている。気候変動を重要課題に掲げる米国バイデン政権のもと、これまで以上に気候変動外交は重要争点化していくと見込まれる。ところが、日本政府が気候変動外交に積極的に貢献する姿勢がみられない。むしろ、脱石炭火力などの論点で、他の国から対策強化を求められているところ、これを拒否して、世界の合意を弱化させている。

そこで、日本政府に対して、気候変動外交の戦略を見直し、これを抜本的に強化することを求める。具体的には、①気候変動を日本の外交における最重要課題に位置づけること、②早急に強化された国別目標(NDC)を国連に提出すること、②気候変動外交の場において世界から問題視されている国内外の石炭火力発電の推進政策をただちにやめること、③2021〜2025年の気候資金について十分な貢献額を早急にプレッジすること、④途上国支援は、緩和だけでなく、適応について大幅に強化すること、⑤気候変動対策強化のための東アジア諸国(日中韓)会議を立ち上げ、自国の対策強化とともに、中国・韓国の対策強化を促すことを求めたい。これらによって、日本国内だけでなく、世界全体の脱炭素政策を加速させ、国際社会における日本の存在感が増し、貢献が評価されることになる。

3.成長追求からウェルビーイング向上へ

-現状/問題-

 人間の経済活動、取り分け18世紀半ばから19世紀以降活発になった経済成長により、現在の気候危機が引き起こされている。2050年までに二酸化炭素排出量ゼロを迫られたいま、これまでの「国内総生産(GDP)」を指標とした成長追求モデルから脱却して、新たな指標をもとにした社会へとシステムチェンジする必要がある。

 その際、新たな指標として期待できるのは、OECD(経済開発協力機構)がこれまで10年近く取り組んできたプロジェクト(GDPに代わる人間の暮らしを把握する指標の開発)で公表された「幸福度指標」が挙げられる。「幸福度指標」とは、先進国および途上国の双方について幸福(well-being)の度合いを測定する網羅的かつ比較可能な指標であり、最も新しい国際的な指標である。この「幸福度指標」を取り入れることによって、これまで測ることが難しいとされてきた「幸福(well-being)」という概念を数値化することが可能となる。

-提言-

主提言

・国の真の豊かさを測るために、GDPのみならず、OECDが作成した「幸福度指標」を積極的に取り入れ、かつ内閣府の定例発表指標にも入れる。

→主提言を受けて更に、経済産業省、厚生労働省にも具体的に以下の項目達成を求める。

・企業での望まない非正規雇用率の低下、有給休暇取得率の上昇、仕事満足度の上昇、性別による賃金の差の解消、長時間の賃金労働の抑制、社会活動参加率の上昇、精神疾患(うつなど)罹患率の低下、子育て満足度の上昇を求める。

・自治体での子育て満足度の上昇、子供当たり児童虐待数の減少、DV認知件数の減少、子どもの貧困率の低下、ひきこもり数の減少、孤独を感じる子供の割合の低下、社会的支援の欠乏の防止、ホームレス数の減少、社会活動参加率の上昇、趣味団体への活動の参加頻度の増加を求める。

-アウトカム-

・物質面での生活水準、生活の質、それらの持続可能性を総合的に評価することができる。

・将来の幸福に向けて不可欠な自然/経済/人的/社会資本について包括的に評価し、重視することができる。

※なお本提言は経済成長そのものを真っ向から否定するものではなく、あくまで経済成長の観点を入れつつも、「持続可能な世界」「国民が幸福となれる世界」の実現を目指す立場を取る。

B.民主主義

4.気候市民会議の創設

 現状、気候変動対策に関して、若者や市民の声が十分に反映されているとは言えず、イギリスやフランス、ドイツなどの事例を参考に、政府が主導する形で、気候市民会議を設置することを求めたい。気候市民会議とは、無作為抽出で「ミニ・パブリックス」を形成し、気候変動対策について議論を重ねる会議である。その際、単に開催するだけでなく、政策決定プロセスに意見を反映させること、透明性を確保することが重要である。

5.Decidimの導入

-現状/問題-

 言論NPOの調査によると、国民の約45%が政治家は自分たちの代表だと全く思わない、どちらかといえば思わない、と回答しており、代表制民主主義の限界が顕在化してきている。また、環境問題といった長期的な目標と対応が必要な議題は、選挙での争点には馴染みにくく、加えて選挙権を持っていない若者の声も取り入れる必要がある。そのような背景から、任意の市民や自治体によって、気候市民会議やDecidimの導入が日本でも進められてきた。Decidimとは、オンラインで多様な市民の意見を集め、議論を集約し、政策に結びつけていくための機能を有している参加型民主主義プロジェクトのためのオンラインツールである。そのようなツールを利用しながら、市民に適切なデータを公表し、市民の議論が可視化される場をつくり、そこでの意見を政策に反映するべきだ。この流れを日本全体に広げ、制度化し、定着させていかなくてはならない。

-提言-

 ・Decidimの使用方法と目的の普及のために、学校や公共施設と連携しつつ、対面での説明会を各自治体で実施

 ・Decidimでの議論の材料となる、各自治体と国のリアルタイムデータを市民に公開

 ・3年以内にDecidimを各地方自治体で導入し、政策に反映

 ・3年以内にDecidimを日本の環境問題対策の議案に関して導入し、政策に反映

 ・Decidimと同様の論点を扱う、対面での議論の場を各自治体で設置

 ・Decidimと同様の論点を扱う、気候市民会議を国規模で実施し、政策に反映

 ・5年以内にDecidimを国家規模の議案に関して導入し、政策に反映

6.誰もが気候変動問題への取り組みに参加できる仕組みづくり

-現状/問題-

 市民による気候変動問題への取り組みは、多くの場合、余暇の時間を割いて無償で行われるものであり、加えて、交通費をはじめとする諸経費を自己負担せざるを得ないなど、若者をはじめとする生活に余裕のない人々にとっては参加しにくいものである。

 しかし、気候危機の影響を真っ先に受ける属性のなかには経済的弱者と言われる人々が含まれ、気候変動対策を検討するにあたっても、この人々こそが非常に重要な存在である。

金銭的な理由の他にも、社会的な役割や状況(労働時間が長すぎる、育児で時間が取れないなど)から、様々な障壁により市民による活動への参加が叶わない人々も多く存在する。

 「誰一人取り残さない」社会の実現を目指すにあたり、経済的/社会的にいかなる状況にある人でも気候変動問題への取り組みに参加できる仕組みづくりが求められる。

 また、世界全体で脱炭素化に向けた動きが加速するなかで、すべての企業は変革を余儀なくされ、イノベーションを起こすために多様な視点を取り入れることの重要性が増す。一方で、企業はSDGsや環境保全に向けた取り組みを行いたいと思っているものの、市民(若者/消費者など)とのつながりが少ないことから、気候変動問題に関するニーズを把握しにくい状況にある。

-提言-

(1)気候変動問題への市民の取り組みに対する基金の設立ならびに規模拡大

(2)自社の商品/サービスなどのリソース提供を通じた、気候変動問題への市民の取り組みに対するサポート

例:(気候変動問題に取り組みたい子育て家庭に対して)

食品メーカーが賞味期限の近い自社の製品を子育て家庭に配付することで、育児にかける時間を気候変動に取り組む時間として使うことができるよう支援する。

自社の会議室やイベントホールなどを託児所として提供する。

(3)気候変動問題に取り組む社員に対する有給/表彰制度などの拡充

<メリット>

・ 経済的/社会的にいかなる状況にある市民でも気候変動問題に取り組みやすくなることで、「誰一人取り残さない」社会に近づく

・基金や制度などによるサポートを通じて企業と市民が連携(情報提供など)を強化することで、サステナブルな企業運営/ブランディングを促進することができる

・気候変動問題に対する企業の取り組みや姿勢が見える化することで社会的な企業価値が向上し、投資家/消費者/社員からの支持を得ることができる

-アウトカム-

・市民と企業の連携が増えることで、企業のイノベーションが加速する

・気候変動問題に取り組む市民が増えることで、「誰一人取り残さない」脱炭素社会の実現に近づく

7.気候変動などの持続可能性の環境問題に対して活動する学生への支援

 気候変動問題や環境問題に対して活動する多くの高校生、大学生がいる。学生たちが活動に取り組むことでカーボンニュートラルの機運が高まっていることは周知の事実であるが、産業界が先行して気候変動問題に対処していればそのような活動をする必要はなく、企業は学生たちの時間を奪っている責任がある。 

 RE100を宣言した企業群や気候変動を優先課題として取り組むと宣言する企業は、それらの学生たちに対して、持続可能な社会を目指すという同じビジョンを持つもの同士として認識すべきであり、彼らの貢献・功績に敬意を表すべきである。

 ところが、活動に専念する学生たちが就職活動の際に、評価されないどころか不利に働くことすらある。エシカル就活という言葉があるが、企業側の理解が今後さらに求められる。

 よって、企業には気候変動問題や環境問題の解決に取り組む学生に対して、支援・応援する趣旨の宣言をプレスリリース等で発表することと、彼らの新卒採用の5年延長を求める。対象の学生は一定の審査基準を設け、条件を開示することとする。公に企業側が発表することで、活動する学生たちが就職の際に不利になることを避け、社会的圧力を払拭することができる。そして、未来世代の環境や機会を奪う気候変動問題の企業責任を果たすのであれば、新卒採用延長だけでなく様々なアプローチで若い世代に対して社会的還元を求める。

8.民主主義の透明性

-現状/問題-

 今後、気候危機を含むさまざまな分野において国民による政策提言がより活発化することが期待される。だが、政策策定において、どのような議論のもとで、なぜそれが採択されたのかが国民に説明されていない。国会中継はなされているが、一定以上の時間を要するため、視聴が困難な層も存在する。また、国会だけでなく各種委員会での議論についても説明が必要だろう。政策形成の参考とされた情報(科学者や有識者の意見、世論、提言文、署名)も不明瞭であり、この点は昨今の感染症対策においても指摘されている。提言をはじめとした国民の政治参加を後押しするためには、前述した問題点の解決による政策形成プロセスの透明化が急務であると考える。

-提言-

・メディア等を用いて、政策形成時になされた一連の議論、採択理由の可視化。難解な表現を避け、だれもが理解できるようにする。

・政策決定時に参考にされた情報(報告書や科学者や有識者の意見、世論、提言文、署名等)の公開

・国会中継のダイジェスト版の配信。可能ならば字幕や解説を加える。

9.独立行政機関である、気候変動委員会の設置

 イギリスでは、データ/エビデンスに基づいた意思決定を行うため、政府とは独立した形で、温室効果ガスの削減目標に対するイギリスの進展状況と、同国の気候変動への取り組みに関するチェック機能を持つ「気候変動委員会(Climate Change Committee)」が設置している。毎年、イギリス議会に対し対策の進捗状況の報告書を提出し、政府はこの報告書に対する返答を議会に提出する義務がある。日本でも同様の独立行政機関の設置を求める。

C.教育の拡充

10.環境教育の拡充

1-1.授業体制

-現状/問題-

 学習指導要領では、環境教育に関して小、中、高等学校のそれぞれに総則が設けられ、各科目毎に具体案が明示されている。しかし教員の過重労働や環境に関する知識不足等により、環境教育が不十分になる事も多い。

-提言内容-

1)外部講師による特別授業

・自然環境や気候変動問題に造詣が深い外部講師を招き、学期毎に特別授業を開催。また、環境への専門知識を持った外部講師を育成する場を作り、円滑に学校への派遣が可能になるシステム構築。

・2024年までに学級活動や総合的な探究の時間などを利用し、対話や議論を通して生徒が環境問題に関して自主的に考える場を整える。

2)教員の教育

教員が環境教育を無理なく行えるよう、教員の働き方改革を推進し、仕事量を削減する。環境問題や気候変動問題は分野横断的で、時々刻々と変化する問題であるため、定期的に教員にこれらの問題の最新情報を共有し、教員自身が環境問題に真剣に向き合う場を設ける。

3) 「環境」科目の設立

気候変動問題の解決法を編み出せる人材を育成するため「環境」の科目を設ける。授業では、環境倫理や現行経済、社会構造などが地球にもたらす悪影響など、「環境」を多面的な観点から考察する。

1-2.授業内容

-現状/問題-

 日本版気候若者会議内でのアンケートによると、気候変動に関する活動を行うU40の中で、学校での学びから気候変動に関心を持ったユースは2割にも満たない。実際、新学習指導要領には気候変動に関する内容が具体的に明記されておらず、学生が環境や気候変動を学ぶ体制が整っていない。そのため、義務教育過程において分野横断的な授業、専門家による講義、自分で熟考する授業が必要である。

-提言-

1)教材

次期教科書改訂にて、環境や気候変動状況に考慮した教科書内容の見直し。また、ICT教育や学校付きデバイスなどを駆使した発信活動の実践。2024年までに学校図書館における気候変動関連書籍の蔵書の増加。

2)教育内容 

2024年までに教育指導要領に下記の項目を明記し、2030年までに実際の教育に反映。

・対話型授業の定常的な実施・エネルギー発電施設とそれによる温室効果ガス排出量や、エコロジカルフットプリントに関する学習の導入。

・カリキュラムにおける越境的な環境問題の取扱い。

・林間学校や遠足などの「自然と触れ合う授業」の定期的な実施、及びそれら校外学習での気候変動を含む環境問題学習の導入。

1-3.場づくり

-現状/問題-

 現在日本では、環境教育を身近に享受できる定期的な機会がなく、将来気候変動の被害を受ける若者が意見を共有したり、政治家に提言したりする場が限定されている。

OECD2016年のデータを見ると日本のユースは、政治に関心が低いわけではないにも関わらず、自分自身の活動により「社会を変えられる」という意識が少ない。将来的に気候変動の被害を受ける若者が、意見を共有したり、政治家に提言したりする場が必要である。

-提言-

1)プロジェクト 

都道府県選出のU30人材が環境問題解決に関する技術や知識を共有し合える、政府後援の元で都道府県主催による「環境版ロボコン・アイデアソン」プログラムの定期開催を2024年までに開始。また、2027年までに持続可能なプログラムの大規模の運営。

2)教育現場づくり 機会創出

GIGAスクール構想における「表現・制作」の具体的な実践を踏まえ、より主体的な「環境」や「気候変動」をテーマに学内プレゼン大会を全国の学校で実施。また2027年までに活動の成果はICT教育や学校付きデバイスなどを用いて発信。

3)持続的交流場

実践的な問題解決に向け、自治体や政府主導による常設のフィールドワークスペースを2027年までに実装。オンライン上で若者と専門家、議員や省庁職員と双方向コミュニケーションが可能なプラットフォーム整備と運用。

4)日本から世界へ

将来的に、環境先進国として海外派遣や、COP、国連人間環境会議などでの広報活動も2030年までに実践。

11.気候変動解決のための大人への消費者教育

 生涯学習センターや国や市町村で、成人に対しても環境教育を含む消費者教育の実施することを提言する。持続可能な社会の実現に向けて、消費者が責任をもった行動をする重要性を伝える必要があるからである。2015年世界市民会議の調査によると、気候変動対策が生活の質を高めると考える消費者が日本は2割である。また、令和元年度「徳島県における『倫理的消費(エシカル消費)』に関する消費者意識調査」では、エシカル消費を行わない理由に対し、約3割の人が、「関心がないから」と回答している。小学校、中学校、高等学校では消費者教育が拡充され、持続可能な消費者の育成が推進されているが、消費者全体の意識向上を図るには、子どものみならず、成人の市民へに対する消費者教育も不可欠である。

 例えば、フィンランドでは、生涯学習の一環として持続可能な消費を目標に掲げ環境教育や倫理教育を含む消費者啓発が行われている。市民に対しても、生涯学習として多様なプログラムが提供されている。日本においても、消費者が気候変動に関心をもち、消費生活と気候変動が密接に関連していることを学ぶことで、消費者意識を向上をさせる機会の提供を求めたい。

12.義務教育における環境に配慮した食育等の促進

-現状/問題-

 国際環境NGOグリーンピースは、地球温暖化を1.5度までに抑えるには、現在の肉や乳製品の消費を2013年の世界平均消費量と比べて半減させる必要があるとし、プラントベース食品への移行を訴えている。

 学校給食ではほとんどの学校で毎食牛乳が提供されているが、学校によっては、豆乳などを始めとした多様な植物性ミルクも普及してきている。植物性ミルクの優れた栄養価や、動物性ミルクよりも環境負荷が小さいといわれる点に注目すべきである。アレルギーで牛乳など特定の動物性食品が食べられない生徒も含め、学校給食に環境負荷の少なさを考慮した選択肢を設けることにより、生徒たちが食と環境に関して無意識にでも考える機会を提供することができる。

また、現代の子どもたちは食材の生産過程を目にする機会が少ない。文部科学省は、食育推進のため「食に関する指導の手引き」を発行し、食育の具体例などを示しているが、実際の指導は学校に委ねられており、取り組みには差が生じている。

-提言-

・食と環境負荷についての授業を充実させるよう、学校に広く働きかける。具体的には、生産過程におけるCO2排出量を考慮することや、地元で作られた食材の調理を通じた地産地消や、野菜に比べて環境負荷のかかる肉や魚(動物性たんぱく質)ばかりを毎食摂取する必要がないことを学ぶように求める。

・実践的な食育も促進させる。学んだことを元に食事を振り返ったり、野菜の栽培キットなどを通して土に触れたりするプログラムを導入する。食材の生産過程を学ぶ機会を学校で提供することで、食材に感謝をする心を育み、好き嫌いによる食べ残しが改善され、食品ロスの減少につながると考えられる。

・1校に1つ以上のコンポストを設置し、給食の食べ残しや、調理時に出た食材の廃棄部位を一部でも堆肥化することを提案する。その堆肥を用いて上記の野菜栽培に取り組むなど、自然循環機能を最も身近に感じられるというメリットがある。しかし食べ残しを助長するケースも否定できないため、食べきりの定着した小学校高学年の生徒や、中学生を対象とする方針が良いと考えられる。

・学校で使用する三大栄養素・五大栄養素の表に、プラントベース食品の表示を増やす。動物性食品と植物性食品を同等の栄養価(たんぱく質など)があるものとして捉えることで、生徒の食に関する選択の幅を無意識的に広げる。

・給食において、動物性食品と植物性食品のそれぞれの長所、短所を把握したうえで、生徒が自主的に考えて選択できることが必要である。生徒が自分の食と環境の繋がりを知り、できるだけ環境に優しい選択ができるように促す必要もある。そのため、給食のメニューに牛乳と植物性ミルクのどちらかを選択する方式や、日替わりで植物性ミルクの日をつくるなど、環境負荷を軽減できるような献立を取り入れるよう、推進する。都内では独自にヴィーガン給食を取り入れている小学校もあり、全ての生徒に対する無意識的な環境教育になっていると言える。

・2025年までに、給食で使用する食材の地産地消割合を26%(平成30年度)から55%を目指す。岩手県矢巾町で、2005年から2007年の取り組みにより地産地消割合が26%から55%になった事例があるため、実現可能な数値だと思われる。地産地消割合を増やすことは、輸送に関わるGHG排出量を減らすだけでなく、食を通して地域に親しみを持つことや、地元の食文化を継承することにもつながる。

13.学びなおしスクール(成人教育機関)

-現状/問題-

 未来世代に関わる問題である気候変動問題は、成育過程でどのような教育や学び、主体性を育んできたのかによって、そのイシューへの理解とコミットメントなどが大きく変容してくる。現行のシステムでは、ある種の特権階級に属していない限り、あらゆる財やサービスを享受することができない。どれだけ問題意識があっても、金銭的、年齢的、能力主義的観点から、その営みに参画することができないという構造が、問題解決への糸口を閉ざしている。

-提言-

 ・成人教育機関 通常の公教育から独立し影響を受けない私立学校群(全国に複数の拠点)

 ・入学資格:原則として17歳以上であること(年齢・国籍・学歴を問わない)

 ・入学試験:なし。在学中も「試験」と名のつくものは基本的になし。

 ・成績表:なし。

 ・修了証・卒業証書:なし。(資格も同様)。

 ・全寮制 講師も生徒も共同生活(宿舎は空き家をリノベーション使用)

 ・学費:国からの補助金を受け、学費は一部のみ負担

  授業料、寄宿料、食費(1日3食)、その他含めて、1カ月3万円~5万円が目安。

 ・科目:人文科学系、芸術・デザイン、体育スポーツを中心として、多岐にわたる。

 ・学習期間:原則、最大10カ月(12週、16週、20週、24週などコース別)。

 ・2025年までに全国で30校開校。

 

-アウトカム-

受験、就活、立身出世など競争を煽ることによって生じる格差や不平等を是正し、社会的地位に囚われることなく本質的な議論を繰り返すことで、社会変革を起こす、健全な心意気と自己効力感が養われ、気候変動をはじめとする社会課題解決へのコミットメントが高くなる。

5.参加者・賛同団体一覧



日本版気候若者会議とは

「環境政策の早期実現」、「開かれた議論の場」、「発信による世論喚起」を目的として、約100名の若者で約10週間にわたり気候変動対策を協議する市民会議。

運営:日本版気候若者会議事務局

主催:日本若者協議会

共催:持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム(JYPS)

後援:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)、環境パートナーシップ会議(EPC)、国際環境NGO 350 Japan / FoE Japan / グリーンピース、公益社団法人日本環境教育フォーラム、ESD活動支援センター、WWFジャパン、環境NGO気候ネットワーク、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)、公益社団法人経済同友会、国立環境研究所、環境政策対話研究所

アドバイザリー:

 ・国立環境研究所 地球システム領域 副領域長 江守 正多氏

 ・環境政策対話研究所 理事 村上千里氏(日本消費生活アドバイザー・コンサルタ

  ント・相談員協会(NACS)/環境委員会委員長)

 ・同志社大学政策学部教授 吉田徹氏(フランス国立社会科学高等研究院、シノドス

  国際社会動向研究所)

 ・北海道大学高等教育推進機構 准教授 三上直之氏(気候市民会議さっぽろ2020 実

  行委員会代表)

 ・環境エネルギー政策研究所 所長 飯田哲也氏

 ・環境政策対話研究所 代表理事 柳下正治氏


「日本版気候若者会議」事務局メンバー一覧(敬称略、順不同)所属先は2021年8月時点

安藤 日為 日本若者協議会

喜友名 理沙 日本若者協議会

倉石 東那 持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム事務局

小宮山 莉子   日本若者協議会

高橋 理都子 持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム事務局

都築 萌香 Climate Youth Japan

冨永 徹平 中央大学1年、Fridays For Future

西田 吉蔵 日本若者協議会、350Tokyo、SDGs市民社会ネットワークフェロー

橋本 あや 日本若者協議会

室橋 祐貴 日本若者協議会

茂木 祥馬 日本若者協議会  ほか 

(敬称略)

気候若者会議 開催経緯(主なテーマ、講師)
 第一回(2021年5月23日)  市民会議の使命と目標
   気候変動とその影響の解析
   北海道大学高等教育推進機構 准教授 三上直之氏
   小泉進次郎環境大臣(メッセージ)   環境省地球環境局総務課政策企画官兼総括補佐 水谷努氏
 第二回(2021年5月30日)  参加者の知識すり合わせ・気候変動とその影響の解析
   国立環境研究所地球システム領域 副領域長 江守正多氏
 第三回(2021年6月6日)
  未来志向の民主主義とグループごとのインプット
   同志社大学政策学部教授 吉田徹氏   消費ー日本消費生活アドバイザー 村上千里氏   移動ー国立環境研究所 松橋啓介氏   住ー芝浦工業大学准教授 磐田朋子氏   食ー環境省 井上直己氏   産業・生産ー京都大学 諸富徹氏
 第四回(2021年6月20日)
  グループごとのインプット、ディスカッション
   産業・生産/消費(合同分科会)ー地球環境戦略研究機関 主任研究員 粟生木 千佳氏   住ー積水ハウス株式会社コミュニケーションデザイン部CXデザイン室 井阪 由紀氏、     みかんぐみ 竹内 昌義氏   食ー電力中央研究所 上席研究員 木村 宰氏   総合ー京都大学大学院地球環境学堂教授 宇佐美 誠氏
 第五回(2021年6月27日)  エネルギー供給に関するインプット、各ディスカッション
   全体講演-滋賀県立大学 環境科学部 講師 白木裕斗氏
 第六回(2021年7月4日)  各テーマで政策案検討
 第七回(2021年7月11日)  中間発表   環境分野のアドボカシー経験者によるパネルディスカッション   JACSES事務局長 足立 治郎氏   Climate Youth Japan OB 新荘 直明氏
 第八回(2021年7月18日)
   中間発表、パブリックコメントを受けて各提言のブラッシュアップ
 第九回(2021年7月25日)   ビジョン確認、各提言への参加者投票
 第十回(2021年8月1日)  最終提言発表

「日本版気候若者会議」参加者一覧(敬称略、順不同)所属先は2021年8月時点

【消費】

大嶋 香菜子   山梨県立大学国際政策学部総合政策学科3年

小野寺 穂奈美 大学生

勝又 瑠彩    群馬県立太田女子高等学校

加藤 かれん  クイーンズランド大学大学院

早野 賢一    インター・ドメイン株式会社、Green Peace Japan ボランティア

【移動】 

佐野 久一朗  社会人

関根 蒔人    東京大学2年

千葉 千早希  主婦

豊田 夏子    上智大学法学部地球環境法学科3年

【住む】

大塚 彩智   和洋九段女子高等学校3年

古賀 瑞     Climate Youth Japan

清水 真由   茶のつたや

藤野 早耶   NO YOUTH NO JAPAN

松永 夏奈   早稲田大学先進理工学部3年

山崎 諒太   創価大学文学部4年 

【食】

石井 佑果   

勝又 璃紀    山梨県立大学国際政策学部

清田 愛実    慶應義塾大学総合政策学部1年

佐々木 悠翔  日本若者協議会 理事

宮崎 ひとみ   管理栄養士

山本 倫未    三輪田学園高校3年

吉野 真由    横浜市立南高等学校「M-Box」代表

【産業・生産】

伊与田 昌慶  気候ネットワーク主任研究員

尾迫 志央理  社会人 

小野 克樹    株式会社ガイアックス(フリーランス) 

河野 美紀    東京大学文科三類2年

芝崎 瑞穂    Change Our Next Decade (COND)

下條 望恵    NO YOUTH NO JAPAN

巽 友希      Greenpeace Japan

永坂 有理    国際基督教大学教養学部2年

畑 香里      Fridays For Future Sapporo 

堀 啓子      地球環境戦略研究機関 IGESフェロー

安江 銀次    合同会社パレット

山口 真太郎  大阪大学理学部

【総合】

飯塚 里沙    Spiral Club

大江 結花    株式会社メンバーズ

奥野 光久    Spiral Club

加藤 知也    小説彫刻家

高原 実那子  生物多様性わかものネットワーク

立山 大貴    Spiral Club

中田 柚葉    神戸大学国際人間科学部環境共生学科4年 

長谷川 友子  任意団体snug 代表

福室 自子    杏林大学医学部医学科5年

三浦 崚      法政大学社会学部

宮木 快      Instagram Youth Media 紡

山名 優衣    神戸大学国際人間科学部2年

山本 峻也    Climate Youth Japan

ほか

(計108名)

協力団体一覧

Spiral Club
Change Our Next Decade

生物多様性わかものネットワーク

Climate Youth Japan

NO YOUTH NO JAPAN

クラウドファンディング支援者様(順不同)

山本峻也様、knoda様、ケンタロ・オノ様、瀬下貴子様、VOICE and VOTE様、清水真由様、えもりん様、kazuyoshi okabe様、Kira Activism様

以上

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